中欧オーストリアで29日、ネハンマー現政権の任期満了に伴い連邦議会(国民議会)選挙が実施される。複数の世論調査によると、野党の極右政党「自由党」が28%から30%で支持率トップを維持している。キックル党首(55)は既に連邦首相になったような雰囲気を意識的に漂わせながら選挙戦を戦ってきている。(ウィーン小川 敏)
欧州政界が右寄り傾向を見せる中、オーストリアでは自由党が今年に入り欧州議会選でも得票率を伸ばし、第1党に躍進した。そして連邦議会選まであと1カ月を切った。
自由党が連邦議会選でトップとなり、政権を取れば、欧州でボイコットの声が広がることは必至だ。1999年の国民議会選で自由党が第2党に躍進し、第3党の保守党「国民党」と連立を組んだ時、欧州政界ではオーストリア・ボイコットの嵐が吹き荒れた。同じようなことが欧州各地で起きることが予想される。
99年と違うのは、自由党が第2党ではなく、第1党に躍進し、キックル氏主導の新政権を発足させる方向が固まっていることだ。
アドルフ・ヒトラーの生誕国、オーストリアでの極右政権誕生は、欧州の他の国とは違って政界へのインパクトが大きい。それだけに、キックル政権発足阻止を訴える声が響き渡ることは間違いない。
まず、自由党が第1党となり、政権を奪取した場合に何をしようとするかを検証すべきだろう。キックル政権は欧州にとって危険か、それとも大衆迎合政権にすぎず、時間の経過と共に消滅していく一過性の政治的出来事にすぎないのか。
隣国ドイツで極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が1日、テューリンゲン州議会選で同党創設2013年以来初めて州レベルの選挙でトップとなった。ドイツからの追い風を受け、自由党は自信を深めている。
キックル氏は8月21日、ウィーンで自由党の選挙プログラムを発表した。そのタイトルは「オーストリア要塞(ようさい)」だ。キックル氏は、オーストリア要塞は「自由の要塞」だと明言している。
自由党は、移民排斥、ナショナリズムを訴え、厳格な伝統的家族観を支持している。欧州連合(EU)やグローバリズムに対して強い懐疑心を抱き、イスラム嫌いでもある。
キックル氏は「自由党は個性、主権、均質性、そして連帯を重視する」と述べ、新型コロナ感染拡大時の基本的権利や自由の制限を批判した。
また、「オーストリアは主権国家であり、EU、世界保健機関(WHO)、国際裁判所の命令を受けるものであってはならない」と「オーストリア・ファースト」を掲げている。
キックル氏は同時に、「民族移動」やイスラム主義、さらには「ジェンダー主義」の脅威について言及し、それらに対抗するためには「再移住」が必要だと述べている。
そして「連帯はオーストリア人のためにあるべきだ。社会福祉は国民にのみ支給されるべきであり、亡命は限定されるべきだ。そもそもオーストリアではもう亡命申請が行われるべきではない」と主張し、ハンガリーのオルバン首相と同様に、「移民ゼロ」政策を掲げている。
自由党の政策で興味深い点は、子供の世話について「平等な選択の自由」を求めていることだ。
子供の受け入れ施設の拡充と家庭内での世話の強化の両方に言及し、「子供が義務教育を開始するまでの世話の時間が年金に加算されるべきだ」と主張する。非常に具体的な提案だ。
さらに、憲法に男女の二つの性別のみが存在することを明記すべきだと主張している。
選挙プログラムは党の公約だ。一読すると「オーストリア要塞」というタイトルが間違っていないことを感じるが、キックル氏が信じているように、それが「自由の要塞となる」かは残念ながら不確かだ。