7月7日のフランス国民議会(下院)選挙で単独過半数を得る政党が現れず、連立交渉も挫折する中、マクロン大統領は、首相選出のために、各党代表と対話を続けている。さまざまな臆測が飛び交う中、最大議席を獲得した左派・新人民戦線(NFP)はマクロン氏への弾劾も辞さない構えだ。(パリ安倍雅信)
マクロン大統領は、パリ五輪閉幕を受け秋からの政治空白を避けるため、各党と本格的対話に入った。仏憲法では下院選後の首相任命、組閣までの期間に制限はない。
下院勢力は、NFP(193議席)、与党中道連合(166議席)、右派・国民連合(RN=126議席)で、過半数の289議席に達する政党はない。
6月の欧州連合(EU)議会選で予想を超えて極右勢力が勢力を伸ばしたことに危機感を抱いたマクロン氏は、RNの発言権が強まることを恐れ、下院解散総選挙を前倒しし、右派を抑え込もうとした。EU議会選は投票率が低かったため、下院選で投票率が上がれば抑え込めると計算した。
ところが6月30日の第1回投票で、RNが過去最大の議席を獲得する勢いとなり、完全に裏目に出た。そこでRNを抑え込むため、強敵の左派勢力は日ごろは連立などあり得ない反政府の急進左派「不屈のフランス(LFI)」、仏共産党(PCF)、社会党(PS)など政策の異なる4党がNFPを結成、中道勢力もRN当選阻止のため候補を一本化した。
一方、第4勢力で、かつて大政党だった中道右派。共和党(LR)は、ある意味で議会のキャスチングボートを握っている。ただ、今回の下院選でLRのシオッティ党首がRNとの関係強化に動き、同調する16人の議員がLRとは距離を置いている。LRは、どの党との連立にも加わらない方針を打ち出した一方、NFPへの協力も拒否した。
さらにマクロン氏を囲む大統領連合、アンサンブルの先週末の会合で、同連合を構成するRE、中道のMoDem、フィリップ元仏首相のホライゾンの3党は、NFPやRNとは徹底して戦うことを確認したとされる。
アンサンブルは、極右と極左勢力を排除した政府の樹立を目指しており、マクロン氏は「安定した安全な政府」を樹立するため「制度的に安定した解決策」を模索していると表明した。メディアは、LFIの息のかかった政権が誕生すれば、議会審議で毎回、厳しい「検閲」を行うだろうと指摘している。
そこでLFIのメランション氏は、そもそもマクロン氏の選挙結果を無視し民主主義を危機に陥れたとして弾劾に値すると圧力を強めている。可能性は低いが、仮に弾劾裁判で辞任に追い込まれればマクロン氏が第5共和制で初めての辞任に追い込まれた大統領になる。
6月30日の第1回投票で明らかになったRN支持の国民の声を反映しない議会に対して、国民の政治不信も高まる一方だ。隣国ベルギーが2年間、無政府状態を続けた例を出し、政府不在でもいいという意見も出ている。
メランション氏は左派の支持基盤を強化することで、4度目となる大統領選に出馬する準備を進めている。一方、第3勢力となったRNは、重要な政策課題である移民政策で国民投票を主張し、来年の再度の解散総選挙実施を主張している。だが、最も重要視していることはRNのマリーヌ・ルペン氏が2027年の大統領選挙で勝利すると定めていることだ。