右派、キリスト教会などが反発
フランスで開催されたパリ五輪開会式は、行き過ぎた演出が国内外の保守派から非難された。特に「最後の晩餐」のパフォーマンスは「キリスト教徒を侮辱した」「五輪開会式を汚した」と世界中から批判され、花の都の式典に影を落とした。(パリ安倍雅信)
パリで26日に開催された開会式は、スタジアムではなく、セーヌ川で行われ、その異例の挑戦は雨天にもかかわらず、高く評価された。同時に出し物の演目の中には、大革命でギロチンにかけられた王妃マリー・アントワネットと思わしき女性が自分の血だらけの生首を持ってヘビーメタルの音楽で歌いだした姿がグロテスクだと批判された。
さらにムーランルージュのフレンチカンカンを彷彿(ほうふつ)させるラインダンスで、女性ダンサーたちが足を上げ、下着姿の下半身をあらわにする姿に「下品で恥ずかしかった」との声もフランス人女性の間から聞かれた。ピンクのポンポンを持ったバックダンサーとパフォーマンスを披露した米歌手、レディー・ガガさんもその延長線上で批判された。
しかし、それ以上に強い批判を内外から受けたのが、レオナルド・ダビンチの傑作で、イエス・キリストの磔刑(たっけい)前夜を描いた「最後の晩餐」を思わせる演出で、トランスジェンダー、ドラッグクイーン(女装パフォーマー)、さらに裸の男性(歌手)が登場する演出に批判が集まった。
特に極右政治家のマリオン・マレシャル氏はⅩ(旧ツイッター)に「これはフランスではない。どんな挑発にも応じる少数の左翼によるものだ」と投稿した。米実業家イーロン・マスク氏もⅩで「キリスト教に対して極めて敬意を欠いている」と投稿した。
フランス司教会議(CEF)は27日、プレスリリースで開会式での演出に「遺憾に思う」との見解を示した。
仏カトリック系日刊紙ラクロワは「仏国内の一定数のインターネットユーザーだけでなく、海外でもこの演出を遺憾に思っており、米国のロバート・バロン司教も批判に加わった」と報じた。
米通信・テクノロジー企業通信会社Cスパイアは、五輪開会式でキリスト教を嘲笑する演出があったとして全ての広告を撤去した。同社は米6番目の無線通信プロバイダーで「パリ五輪での『最後の晩餐』の嘲笑に衝撃を受け、広告を撤回する」と発表した。
演出を手掛けた劇作家で俳優でもあるダミアン・ガブリアック氏は「共に生きる」ことを提唱するこれらの演出を擁護し、「フランスにはあらゆるものがあった。小柄な人々、背の高い人々、太った人々、痩せた人々、黒人、白人、アラブ人、皆が一緒になってそれぞれの文化のダンスを披露している…」と説明したが、批判も想定内だったようだ。
フランスでは7日の総選挙で右派、左派、中道のどの政党も単独過半数を取れず、政治的混乱に陥っているが、実は今回の五輪開会式演出は、極めて左派リベラルの色が濃いにもかかわらず、中道のマクロン氏が合意したものだった。
一方、開会式の芸術監督トマ・ジョリー氏は、強い反発やキリスト教を嘲笑しているという非難を受け、27日、五輪公式記者会見で、自身の意図は「破壊的、嘲笑的、または衝撃を与えること」ではなく、フランスの多様性を示すことだったと説明した。だが、国内外で物議を醸し、特に国外では好評とは言えなかった。
マレシャル氏は、米シンガーソングライターのアヤ・ナカムラさんが、共和国防衛隊の軍楽隊とともに、神聖なアカデミー・フランセーズ(フランス語を保存する高貴な機関)の前でパフォーマンスしたことも批判した。