【パリ安倍雅信】7日に実施されたフランス総選挙(定数577)は8日時点で、予想に反し最大議席を獲得したのは左派連合の新人民戦線(NFP)、2番手は大統領中道派のアンサンブル(ENS)で、首位が予想されていた右派・国民連合(RN)は3番手となった。ただ、主要3党はどれも単独過半数に至らず、議会はどの党から首相を出すのかも含め、深刻な混乱が予想される。
8日に伝えられた選挙結果ではNFPが188議席、ENSが161議席、RNは143議席となり、NFPは急進左派から中道左派までの明らかに不自然な連合で今後、統一した政策を共有できるか危ぶまれる。ENS率いるマクロン仏大統領は、議席で上回るが政策で大きな開きのあるNFPと政策的には一貫性を持つRNに挟まれた状態となった。 NFPの指導者の一人で2027年の次期大統領選出馬を狙う急進左派の不屈のフランス(LFI)率いるメランション氏は「この結果から、マクロン氏は法的年金受給年齢を64歳から60歳に戻すべきだ」と強く主張した。選挙中NFPの公約の多くがバラマキで財源の根拠がないと批判されたが、NFPは最多議席を手に入れた。
予想外のNFPの勝利、RNの失速は、RNが善戦した6月30日の第1回投票結果を受け、RN阻止のために、NFPとENSが共闘し、2回目投票前に220名以上の候補者を撤退させることで対RNの候補者の1本化をしたことが功を奏したとみられている。3位となり首相就任の可能性の消えたRNのバルデラ党首は結果を受け「不名誉な同盟」に動いた2党を強く批判した。
RNは88の現有議席を143に伸ばしたという点では、大きな躍進だった。2002年時点で1議席しかなかった国民戦線(FN RNの前身)は2012年には2議席、2017年には8議席、2022年には89議席を獲得し、今回の選挙で約20年間で爆発的に議席を増やしたことになる。その政治的影響力は無視できないレベルであり、2027年の大統領選に王手をかけているともいえる。
極右が躍進した欧州連合(EU)議会選からちょうど1カ月が経(た)ち、RNは第1党にはならなかったものの、政治影響力、存在感を示すことに成功した。同時に仏メディアは2017年の選挙で長年続けた左右政治勢力の対立構図を中道でまとめ上げたマクロン氏が登場し、政界を一変させたが、その急変の副作用が出ていると指摘されている。
いずれにしろ、マクロン氏の求心力低下は避けられず、欧州連合(EU)推進派でウクライナ支援で仏兵士の投入も約束し、イスラエル・ハマス戦争でイスラエルを全面支援するマクロン政権は、どれも後ろ向きの左派連合を抱え、同盟国との関係にも影響が出るのは不可避とみられる。