バチカンニュースが報じたところによると、ローマ・カトリック教会総本山バチカン教皇庁教理省は17日、1978年から施行されてきた超自然現象の評価に関する規範を更新したと発表した。これにより、世界のカトリック信者の巡礼地、フランス南部のルルド、メキシコの褐色のマリアのグアダルーぺ、ポルトガルの小村ファティマなどの聖母マリアの再臨地に関する幾つかの新しい規定が導入されるという。(ウィーン小川 敏)
新規範の特徴は、①民間信仰に関する意見表明を迅速に行う②教会当局が現象の超自然性を公式に宣言することは基本的になくなる③教理省の関与を明確に規定。教理省が司教の最終決定を承認し、いつでも自発的に介入する権限を持つ。
バチカン教皇庁の教皇アカデミー(PAMI)は2023年4月13日、世界各地で報告される聖母マリアの再臨、それに関連した神秘的な現象の信憑(しんぴょう)性を調査する監視委員会を設置してきた。同委員会は、聖母マリアの出現、流涙、聖痕などを分析し、教会の権威をもってその真偽を調べる課題を担う。
バチカンニュースは「18世紀以来、マリアの出現は『私的啓示』に分類されている。カテキズムによると、教会がその真実性を認めた場合でも、カトリック信者が私的啓示を信じるかどうかは自由」と解説している。
一見、合理的で時代に呼応する対応といえるが、少しうがった見方をすれば、聖母マリアの再臨現象が世界各地で報告されていても、その信憑性が疑わしいケースが少なくないため、バチカン側が危機管理に乗り出したというべきだろう。
バチカンニュースは昨年8月17日、「聖母マリアの出現は本当か、うそか」というセンセーショナルな見出しで大きく報道していた。PAMIの会長ステファノ・チェッチン神父は「聖母マリアの再臨などで語られるメッセージが混乱を引き起こし、恐ろしい終末論的なシナリオを広めたり、教会批判を拡散することも増えてきた。世界のさまざまな地域で報告されている亡霊や神秘的な現象を正しく評価および研究するために、国内外の委員会を活性化する必要がある」と説明している。
カトリック信者にとって聖母マリア再臨の巡礼地といえば、ポルトガルのファティマ(1917年)やフランス南部のルルド(1858年)がよく知られてきた。フランス南西部の小村ルルドで1858年、聖母マリアが14歳の少女、ベルナデッタ・スビルーに顕現し、これまでにルルドの水による6500回以上の癒やしが記録されている。そのうち、66回はバチカン法王庁が公式に奇跡と見なしている。ルルドには毎年、約400万人が訪れる。巡礼者には病人や老人たちが多いが、若者の姿も少なくない。
最近では、ボスニア・ヘルツェゴビナのメジュゴリエで聖母マリアが再臨し、さまざまな奇跡を行ってきた。
聖母マリアの再臨地には多くの巡礼者が殺到し、病が癒やされる奇跡を願う。その一方、フェイクの再臨現象も出てきた。聖母マリアの再臨地となれば、世界各地から多くの信者が巡礼に来るため、現地の教会、その地域にとって大きなビジネスとなるからだ。
教理省長官ビクトル・マヌエル・フェルナンデス枢機卿は「聖母マリアの再臨などの出来事はしばしば、信仰の成長、敬虔(けいけん)さ、兄弟愛、奉仕の精神など、多くの霊的な実をもたらし、民衆信仰の中核となっている多くの巡礼地がある一方、疑わしい超自然現象による出来事の中には、信者に害を与える非常に深刻な問題が発生することがある。例えば、利益、権力、名声、社会的な有名性、個人的な利益を得るためにこうした現象が利用される場合だ」と述べている。いずれにしても、超自然現象の評価に関する最高権威は教皇にあるという。