北大西洋条約機構(NATO)加盟国の中で米国に次ぐ規模のウクライナ軍事支援を行っているドイツで徴兵制の再導入の声が高まっている。ドイツ民間放送RTLとニュース専門局ntvの要請を受けて世論調査研究所「フォルサ」が徴兵制の再導入の是非を聞いた。それによると、国民の52%が支持、反対は44%だった。(ウィーン小川 敏)
徴兵制の再導入に反対しているのは、ショルツ連立政権の与党「緑の党」や自由民主党(FDP)の支持者のほか、兵役の対象となる30歳以下の国民が多い。最も強く支持しているのは、野党第1党中道右派「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)、そして左派ポピュリスト政党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟」(BSW)の支持者に多い。ショルツ独首相の与党第1党「社会民主党」(SPD)の支持者は意見が分かれている。
調査結果で興味を引く点は、「プーチン大統領はウクライナ戦争に勝利すれば、NATO加盟国に侵攻すると思うか」という質問に対し、54%が「侵攻する」と答え、「NATO加盟国への攻撃は考えられない」は39%にすぎなかったことだ。
支持政党別に見ると、SPD、緑の党、FDP、CDU/CSUの支持者の大多数は、「プーチン大統領はウクライナに勝利すれば、NATO諸国に侵攻する」と考えている。一方、AfDとBSWの支持者の大多数は、「ロシアの攻撃は問題外」と考えている。
ショルツ連立政権の3与党と野党第1党のCDU/CSUの支持者はロシアのNATO諸国への攻撃を現実的なシナリオと感じる一方、AfDとBSWの支持者で「侵攻はあり得る」と答えたのは25%にすぎなかった(調査はフォルサがRTL/ntvトレンドバロメーターのために5~8日に実施。回答者1009人)。
ドイツでは第2次世界大戦終了後、連邦軍は職業軍人と志願兵で構成されてきたが、兵士が集まらないこと、旧ソ連・東欧共産ブロックとの対立もあって1956年から徴兵制を施行、18歳以上の男子に9カ月間の兵役の義務を課してきた。兵役拒否は可能で、その場合、病院や介護施設での社会福祉活動が義務付けられた。
徴兵制は2011年に廃止。冷戦時代が終了し、東西ドイツの再統一もあって、連邦軍の総兵力は約25万人から約18万5000人に縮小された。旧ソ連・東欧共産政権が崩壊していく中、ドイツを含む欧州諸国は軍事費を縮小する一方、社会福祉関連予算を広げていった。
その流れが大きく変わったのはやはりロシア軍のウクライナ侵攻だ。ショルツ首相は2022年2月、「時代の転換」を宣言し、軍事費の大幅増額に乗り出した。連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達などの計画が発表された。そして国防予算を国内総生産(GDP)比2%に増額する一方、軍事大国ロシアと対峙(たいじ)するウクライナに武器を供与してきた。
ピストリウス国防相は未来の徴兵制として「スウェーデン・モデル」を考えているといわれている。スウェーデンでは10年に徴兵制が停止されたが、 14年のロシアによるクリミア併合を契機として、18年1月に徴兵制が再導入された。スウェーデンの徴兵制は、 兵役、一般役務、民間代替役務から構成され、18歳以上の男女を対象としている。
フォルサは今年2月、「戦争が発生したら武器を持って戦う用意があるか」と聞いた。59%は「戦う考えはない」と回答。「戦う」(19%)と「おそらく戦う」(19%)を合わせても38%だった。