モスクワ銃乱射テロ 露社会に深刻な亀裂 タジキスタン出身11人逮捕

出稼ぎ労働者の取り締まり強化 中長期的に経済に影響も

1日、モスクワの裁判所に出廷した銃乱射テロ事件の 容疑者 = 裁判所提供(AFP時事)

モスクワ郊外で3月22日に起きた銃乱射テロ事件を受け、ロシア社会に深刻な亀裂が広がっている。逮捕された容疑者11人がタジキスタン出身だったことから、中央アジア系出稼ぎ労働者に対する取り締まりが大幅に強化され、故郷に戻る動きも始まっている。(繁田善成)

モスクワ郊外のコンサートホール「クロッカス・シティー・ホール」で3月22日に起き、140人以上が犠牲となった銃乱射テロ事件から3週間が過ぎた。「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、逮捕された容疑者11人が中央アジア・タジキスタン出身だった。しかし、プーチン大統領はISの犯行であるとは断固として認めず、背後にウクライナがいるとの主張を続けている。

4日に開かれた安全保障会議では「イスラム過激派はロシアに対し何の不満も抱いておらず、ロシアを攻撃することはない」「われわれは宗教間の調和と団結を示す国だ」と強調した。

ロシアがどのようにシリア内戦に介入し、同国アレッポの民間人をどのように空爆し、アサド政権に手を貸したか、忘れてしまっているようだ。

どちらにせよロシア指導層の言う「ウクライナの痕跡」は、新たな動員の序章になるだろう。

民族系・愛国系のSNSでは、外国人排斥の議論が熱を帯びている。その一つは、過去15年間にロシア国籍を取得しながらも特別軍事作戦に参加していない中央アジア出身者を、テロリストの共犯者とみなすというものだ。

ロシアの治安部隊は、テロ容疑者の1人を拘束する際、地面にうつぶせにさせた上で右耳の一部をナイフで切り取り、それを容疑者の口に押し込んだ。

治安部隊が自らSNSに映像をアップしたのは、国民の支持を受けると踏んだからだろう。

実際、そうだった。拷問・虐待以外の何物でもないが、ロシアのテレビコメンテーター、御用学者らは喝采し、映像も繰り返し流された。

テレビでは、中央アジアからの出稼ぎ労働者に対する取り締まりの強化や、書類に不備がある者の送還などのニュースが繰り返されている。また一部議員は、出稼ぎ労働者の追放や入国制限を提案している。

しかしことは単純ではない。ロシアは彼ら労働力を必要としており、中央アジア諸国も労働力の輸出が不可欠だからだ。

中央アジアの強権国家の政権運営が安定しているのは、ロシアが出稼ぎ労働者を受け入れているからだ。高い失業率と高い出生率。家族を養う手段を持たない者が増えれば、国民の不満の矛先は政権に向く。言葉が通じるロシアに送り込むしかない。

一方のロシアは出生率が低下し、外部からの流入なしには経済も人口も維持できない。

だがプーチン政権は“出稼ぎ労働者取り締まり強化”により、彼らを敵視する雰囲気を拡大させた。

出稼ぎ労働者の帰国の動きが加速しているが、この波は中長期的に中央アジアを不安定化させ、そして、ロシアに跳ね返ってくるだろう。

ロシアは昨年、実質国内総生産(GDP)が3・6%成長を示した。好調なエネルギー輸出と、軍需産業への財政出動によって実現したものだが、その勢いにも陰りが見え始めている。

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