「ロシア脅威」の認識低下【連載】ウクライナ侵攻2年―試練の欧州

独ベルリンで「武器ではなく、 平和を寄付しろ」と書かれたプ ラカードを掲げる反ウクライナ 武器支援デモの参加者 = 2023年 2月25日(AFP時事)

軍事大国ロシアのウクライナ侵攻に危機感を持った欧州諸国はこれまでウクライナへ武器供与などの支援を続けてきたが、「支援疲れ」が見られ始めている。それを裏付けるように、欧州の盟主ドイツの国民はロシアのプーチン大統領よりも中東・北アフリカから殺到する移民をはるかに恐れているという調査結果が報じられた。

ミュンヘン安全保障会議(MSC)が今月に入って公表した調査から、先進7カ国(G7)でロシアに対する危機意識が減少しつつあることが明らかになった。例えば、ドイツ人は現在、ロシアの侵攻よりも、移民問題を恐れている。

ドイツは米国に次いで世界2位の移民流入国。連邦統計局によると、全人口(2023年は約8470万人)のうち移民(21年段階で約2230万人)が占める割合は年々増加しており、移民の殺到はドイツ国民にとって最も深刻な脅威と受け取られている。移民・難民問題で強制送還など強硬政策を主張する極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が国民の支持を集めている理由でもある。

侵攻は3年目に入り、ドイツを含め欧米諸国で国民の関心が薄れてきている。12日に発表された「ミュンヘン安全保障指数2024」によると、「ロシアの脅威」に代わって、移民問題、サイバー攻撃、地球温暖化、イスラム過激主義などが再び大きなリスクとして認識されるようになっている。

調査はG7加盟国、ロシアを除くBRICS(ブラジル、インド、中国、南アフリカ)とウクライナの計12カ国、1万2000人を対象に「何を最大のリスクと見ているか」を聞いた。調査期間は23年10月24日~11月16日。

ロシアに対するリスク要因の認識は、ほぼすべての国で低下し、ドイツは7番目、イタリアは12番目に下がっている。国民がロシアを最大の安全保障上のリスクと認識しているのは英国と日本の2カ国だけだ。昨年はG7の5カ国も「ロシアのリスク」という認識を共有していた。

日本の場合、1位は「ロシアのリスク」で74点、2位は「中国のリスク」73点、3位は「サイバー攻撃」72点となっている。ドイツの場合、国民は昨年の調査でロシアを最大のリスクとして挙げたが、今年に入り、7番目に急落。隣国フランスと同様、移民やイスラム過激主義に対するリスク認識が大幅に高まった。カナダ、イタリア、ブラジルは、異常気象と森林火災を最も懸念している。中国と米国ではサイバー攻撃が最優先事項となっている。

12日に発表された「ミュンヘン安全保障報告書2024」は、「地政学的な緊張が高まり、経済の不確実性が高まる中、多くの政府はもはや国際秩序、世界的な協力の絶対的な利益に焦点を当てていない」と警告している。

ウクライナへの最大の支援国・米国の連邦議会は総額1105億㌦の国家安全保障補正予算の承認問題で共和党と民主党の間で対立を繰り広げている。補正予算のうち約614億㌦がウクライナへの援助に充てられているが、共和党議員の間でウクライナ支援の停止、ないしは削減を要求する声が高まっている。欧州連合(EU)加盟国でもハンガリー、スロバキアはウクライナへの武器供与を拒否するなど、支援離れが具体的に進んでいる。

いずれにしても、「ロシア・リスク」への認識の低下は、世界が今、他の多くのリスク要因に同時に直面していることを示している。だが、ウクライナ侵攻は、世界の経済・エネルギー問題に大きな影響を与えるリスク要因だけではなく、民主主義の世界と独裁専制主義国との衝突といった複数の要因を内包する黙示論的リスクだ。(ウィーン・小川 敏)

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