NATO 自主防衛に課題【連載】ウクライナ侵攻2年―試練の欧州

ブリュッセルで取材に応じるウクライナのゼレンスキー 大統領(左)と北大西洋条約機構(NATO)のストル テンベルグ事務総長 2023年10月11日(EPA時事)

ロシアに軍事侵攻され、現在も戦争終結の見通しが立たないウクライナは、欧州にとっては地続きの国であり、対処を間違えば、再び欧州が戦場となるリスクを抱えている。

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は2年前の開戦当時、「東西冷戦終結後の枠組みを根底から覆す出来事が起きた」との認識を示した。しかし、英国および欧州連合(EU)加盟国間には当初からかなりの温度差があった。

EU最大の経済大国ドイツは当初、軍事支援に消極的で最初はヘルメットを送り、第2次世界大戦後から倉庫に眠っていた兵器を供給したりしていた。EUは紛争開始から3カ月後、ロシア産原油輸入を停止する方針を打ち出したが、内陸のハンガリーなどはロシア依存を続けた。ロシアに近いバルト3国の危機感は西側欧州にはない。

戦争の長期化が予想される中、欧州では自主防衛の機運が高まり、ストルテンベルグ氏は14日、NATO加盟31カ国中18カ国が今年、国防費を国内総生産(GDP)比2%とする目標を達成するとの見通しを示した。過去最大規模の総国防費増額となり、欧州加盟国の今年の国防費は総額3800億㌦となる。

フランスは当初、2024年に1・94%とする予定で、早くても25年までは2%に達しないと予想されたが、今年中に2%に達することが発表された。

ストルテンベルグ氏は残る13カ国に対しても、米国との公平性を示すためにもNATOへの分担金負担の増額の協力を呼び掛けた。とはいえ、欧州の武器備蓄不足は深刻で、独最大の軍需企業ラインメタルのアーミン・パペルガー最高経営責任者(CEO)は最近、欧州が自国を完全に防衛する準備が整うまで10年かかるだろうと述べている。

ウクライナは慢性的な砲弾不足に悩まされており、欧州各国は自主防衛体制に大きく舵(かじ)を切ったものの、ウクライナに潤沢な軍事支援を行いながら、自国防衛のための戦略的武器備蓄を行うだけのレベルには達していない。

米国頼みの現実が急には変わらない中、できることは可能な範囲でウクライナ支援を継続しながら、時間をかけて備蓄を増やしていく選択肢しかない。さらに米国依存を変える手段として欧州核武装強化の議論も高まっている。

フィンランドがNATOに加盟し、スウェーデンの加盟も決まった。ウクライナ侵攻がNATO拡大を後押しした形だ。同時に22年3月にロシアの欧州評議会の加盟資格が停止され、同年11月には欧州通常戦力(CFE)条約から脱退した今、唯一残った欧州安全保障協力機構(OSCE)への期待が高まっている。

ただ、昨年末のOSCE安全保障会議でロシアのラブロフ外相は「OSCEがNATOやEUの付属物となっている」とその存在意義に疑問を呈し、欧州とロシアの安全保障対話は不透明な状況だ。

さらにロシアはインドをはじめとする新興・途上国「グローバルサウス」を味方に付けるため、アフリカのサヘル地域などで反政府勢力を支援し、欧州の旧宗主国の追い出しを図っている。その直撃を受けているフランスは、アフリカのフランス語圏からの撤退を余儀なくされており、フランスの存在感は急速に弱まっている。

欧州としては、ロシアがウクライナを占領し、欧州大戦争に発展することは絶対に避けたい。ただ、自主防衛体制構築には時間がかかる上、米国との協力なしには脅威に対処できない現実もある。(パリ・安倍雅信)

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