独で右派新党「価値同盟」結党 党首に憲法擁護庁長官

保守と極右の「懸け橋」目指す

ド イ ツ 連 邦 憲 法 擁 護 庁 の マ ー セ ン 長 官 ( 当 時 ) = 2 0 1 6 年 6 月 28 日 、 ベ ル リ ン ( A F P 時 事 )

ドイツで2月17日、「価値同盟」(WU)と呼ばれる新右派政党が誕生した。新党の中心人物は独連邦憲法擁護庁(BfV)長官を務めたことがあるハンス・ゲオルク・マーセン氏(61)だ。「キリスト教民主同盟」(CDU)を離党したマーセン氏は「新党はCDUが失ってきた本来の保守政策と過激な極右政党『ドイツのための選択肢』(AfD)の懸け橋的な政党を目指す」という。(ウィーン・小川 敏)

WUは2017年1月の創設当初は保守派政治団体だった。メンバーは「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)の党員が大多数を占め、4000人とみられている。政治信条はCDU/CSUに似ているが、AfDに対しては既成政党と異なり、排斥するのではなく、政策ごとに是々非々で対応し、連携がプラスと判断すれば協調していく柔軟姿勢を取ってきた。そのため、他の政党からだけでなく、CDU/CSUの一部からも「極右グループ」と受け取られてきた。そのWUが2月、政党になった。

党首マーセン氏は、2012~18年までBfV長官を務めた高級官僚だ。挑発的でポピュリスト的な発言を繰り返し、1月、CDUから離党を余儀なくされた。マーセン氏はその後、保守政治団体だったWUを政党に変え、CDUと決別した。新党は「保守的リベラル」と称している。

マーセン氏は「政権を握ることが目的だ。われわれはドイツの政策変更を望んでいる」と強調、AfDとの関係については、「連立政権を築く考えはないが、厳格な境界を設けるつもりもない」と述べ、AfDとの接触や協力を許容する可能性があることを示唆している。ただし、具体的な協力の形態や範囲については述べていない。

マーセン氏がCDUから離党する直接のきっかけとなったのは、18年8月26、27日にかけて東部ザクセン州第3の都市、ケムニッツで発生した難民と極右グループの衝突事件だ。事件で35歳のドイツ人男性が2人の難民(イラク出身とシリア出身)にナイフで殺害された。事件直後、極右過激派、ネオナチ、フーリガンが外国人、難民・移民排斥を訴え、路上で外国人を襲撃。それを批判する極左グループと衝突し18人が負傷するという騒動となった。

メルケル首相(当時)はその直後、「法治国家で路上で難民や外国人が襲撃されることは絶対に許されない」と極右グループを強く批判した。それに対し、BfV長官だったマーセン氏は日刊紙ビルトとのインタビューで、「ケムニッツの暴動を撮影したビデオを分析した結果、極右派が外国人や難民を襲撃した確かな証拠は見つからなかった」と述べた。事件当日、「極右派が外国人や難民を襲撃した」「一部でリンチが行われた」といった情報がメディアに流れたが、マーセン氏の発言はそれを否定するものだった。

マーセン長官はこの発言を受けて、BfV長官のポストを失った。マーセン氏自身は、「ビデオを見た感想を述べただけ」と発言し、理解を求めたが無駄だった。移民問題でリベラルな政策を取ってきた16年間のメルケル政権時代、CDU/CSU内の保守派には不満の声がくすぶっていた。マーセン氏もその一人だった。

マーセン氏はBfV長官辞職後、ポピュリスト的発言を繰り返し、物議を醸してきた。BfVは現在、マーセン氏を右翼過激主義者として監視対象としている。マーセン氏は「私を監視対象とする実証的な証拠はない」と反発している。

WUが新しい右派政党として中道保守政党CDU/CSUのライバルとなるか、支持率を伸ばしているAfDとの政策連合を模索するのか、注視する必要がある。

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