「EU環境政策」曲がり角 各国で広がる農業従事者デモ

昨年10月18日、フランス東部ストラスブ—ルで、欧州連合(EU)の欧州議会で発言するフォンデアライエン欧州委員長(AFP時事)
昨年10月18日、フランス東部ストラスブ—ルで、欧州連合(EU)の欧州議会で発言するフォンデアライエン欧州委員長(AFP時事)

分断避けたい欧州委員長

欧州連合(EU)内の農業従事者らが2050年のカーボンニュートラル(脱炭素)達成のために打ち出したEU政策に反発し、フランスやスペイン、ベルギーなどEU全域で抗議行動を展開している。これを受け、欧州委員会は方針撤回を表明。欧州議会選挙が近づく中、EUは環境と農業政策の間で葛藤が続いている。(パリ・安倍雅信)

EUのフォンデアライエン欧州委員長は今月6日、欧州議会の演説でEU理事会および欧州議会との調整を進めてきた持続可能な植物保護剤(PPP)の使用に関する規則(SUR)案を撤回するよう行政当局に求めたと述べた。さらに40年までの達成目標からも農業分野の目標は削除された。

欧州議会は昨年11月にSUR案を否決。30年までに、EU各加盟国が化学肥料の使用を50%に削減することを骨子とした法案も頓挫した。議会の右派などが主要な農業組合と同様にこの結果を歓迎した一方、環境保護を掲げる政党は「(議会が)私たちと私たちの子供たちに暗く困難な未来を約束する道を選んだ」と遺憾を表明した。

EUが打ち出した50年までに脱炭素を目指す欧州グリーンディールでは、農家が使用する殺虫剤や除草剤などの農薬の使用量と窒素排出量を厳しく規制する内容も含まれていた。フォンデアライエン氏は行政当局に対し、SURの撤回理由として、この提案はEUの「二極化の象徴」となったと述べ、EUの分断を避けたい意向を示した。

ただ、同氏は「現在、欧州の土壌の60~70%が劣悪な状態にある」ことを認め、「このテーマは依然として(欧州グリーンディールと)関連性がある」とし、「さらなる対話と異なるアプローチが必要だ」との認識を示した。農業関係団体との話し合いをもとに新たな提案を待つ意向も示している。

仏日刊紙ルモンドは「EU全体が環境問題に逆行したのは初めて」と強調し、実現に痛みを伴う欧州グリーンディールに対する自国民(特に農民)の強い抵抗に遭い、規制緩和を求める加盟国首脳が増えたと指摘。左派系のルモンドは「大多数の加盟国は規制を緩め、議会は右派や極右による支配を許している」と環境対策の方向転換を批判した。

ただフランスの場合、農民らがトラクターを動員し、道路封鎖などを行った全国規模の抗議デモは、一般市民に支持され続けた。むしろ、ダルマナン仏内相は「(左翼の過激な)長髪を縛った男性環境活動家と異なり、農民たちは警察を直接攻撃しない」とし、実際、政府との対話もスムーズに行われた。

その意味で、左翼的環境活動家が主導した政府や大企業を標的とした環境運動に押された政策は現実性に乏しく、大きな曲がり角にあることを示したと言える。

持続可能な開発・国際関係研究所(IDDRI)のピエール・マリー・オベール氏は、フランスの農家が「厳し過ぎる行き過ぎたEUの環境基準にあえいでいるのではなく、何よりも移行期における支援の欠如が彼らの怒りを煽(あお)っている」と分析している。

各加盟国が持つ農業および環境政策に関する権限を委譲されたEUは過去20年間、共通農業政策(CAP)である欧州農業の発展と支援を目的に生産性や効率性を追求してきた。生物多様性保護のため農場の4%を休耕地とすることで環境に優しい農業を推進したのも、その一環だ。ただ、移行に必要な経済的存続条件への配慮が不足した。

農業国家のフランスでは10年間で農薬使用を半減するというEU以上の目標を掲げ、農家は圧力にさらされている。さらに規制による負担にEU内で温度差があり、規制の甘い国々の農産物に対して競争力と公正さを失わせることになった。

EUは今年6月、欧州議会選挙を控えている。議会の決定権が欧州委員会より強まる中、欧州議会選の行方はEUの方向に決定的影響を与えることになりそうだ。

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