問われるいじめ対策の効力 「フランス」共感プログラムの導入も

フランスのガブリエル・アタル国民教育相(当時)=2023年12月、パリ(AFP時事)
フランスのガブリエル・アタル国民教育相(当時)=2023年12月、パリ(AFP時事)

加害者への拘禁刑厳罰化

フランスは昨年9月の新学年から、学校現場で深刻化するいじめの対策に乗り出し、加害者への厳罰化と、いじめ回避のためのデンマーク式教育プログラム導入を進めている。厳罰化対策導入から3カ月が経(た)ち、今年は共感プログラムが導入される。自殺者を出している深刻な現状を改善できるのか、注目されている。(パリ・安倍雅信)

昨年9月、パリ市に隣接する南東郊外のアルフォールビルの中学校の授業中の教室に、いきなり警官が現れ、いじめ加害容疑の中学生が逮捕されるという前代未聞の出来事が起きた。フランスでは9月の新年度、校長と自治体首長にいじめ加害者の強制転校の権限が与えられた月でもあった。

仏メディアは「学校は社会の中でも閉ざされた聖域と考える一部の保護者や学校管理者に衝撃を与えた」(仏週刊誌レクスプレス)などと報道。当時、いじめ加害者と被害者は別の中学校に通っており、クリテイユ検察当局によると、被害者の15歳のトランスジェンダーの女生徒に対して、加害者の14歳の男子生徒が、SNS上で脅迫と暴言を繰り返していたとされる。

学校を超えたレベルでいじめが発生したSNS時代を物語るもので、検察当局からは、逮捕した男子生徒は、トランスジェンダーに対する嫌悪から「彼は性的指向を理由に、殺害の脅迫と意図的な精神的暴力の容疑で送検された」と説明があった。

警察がいじめ厳罰化で迅速に動いた背景の一つは、昨年9月の初め、パリ西部郊外のポワシーで15歳の生徒ニコラ君がいじめを苦にして自殺した事件があったことも影響している。長期に渡るいじめに苦しむニコラ君の両親が学校に何度も訴えたにもかかわらず、ベルサイユ教育委員会は対応せず、逆に両親に圧力を加える手紙も発覚した。

昨年5月12日には、フランス北部パ・ド・カレー県ヴァンダン=ル=ヴィエイユの中学に通う女子生徒が、8カ月にわたるいじめやネットでの嫌がらせを苦に自殺した。同事件はいじめとの戦いが2023学年度の開始に向けた「絶対的な優先事項」(エヌディアイ前教育相)になることにつながった。

2013年に13歳の娘マリオンさんをいじめによる自殺で失った母親が設立したいじめ撲滅運動協会「マリオン・ラ・マン・タンデュ」は2021年1月、イル=ド=フランス(パリ首都圏)と共に仏調査会社Ifopに教師と生徒を対象にした調査を依頼した。

その結果によると、少なくとも41%が「反復的かつ継続的な言葉や身体的、心理的暴力の被害の経験がある」と答えている。そのうち54%が中学校の時、23%が小学校の時と答えた。しかも全体の80%が3カ月以上、38%が1年以上にわたり続いたと答えた。

加害者の強制転校、最長10年の拘禁刑を科す厳罰化が昨年9月に導入されたフランスでは、いじめ回避の教育プログラムとしてデンマークで実施され、欧州連合(EU)で高い効果を生んだ「共感プログラム」が導入される。デンマークでは月に数回いじめを受けた11~15歳の男子の割合は15%から6%に、女子は14%から9%まで低下したという。

教師、生徒を対象にした同プログラムの目的は、人間間における寛容さや思いやり、相手を尊重すること、勇気を持つことといった基本的な価値観を教えることにある。人間は共存関係にあり、お互いを認め、他者を排除しないことを学ぶことで、共感力の強化と自制心を習得するプログラムは実際、デンマークで効果を上げている。

昨年12月15日、ガブリエル・アタル仏国民教育相(当時)は教育現場でデンマーク方式の他者への敬意と寛容に関する共感力を強化するコースを今年1月から1000校でテスト的に導入することを発表。その後、来年9月に一般化されることも明らかにした。アタル氏によれば、政府の予想以上に多くの保育園、小学校が導入に前向きな反応を示している。

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