カトリック教会が強い懸念 フランス 中絶の権利を憲法に明記へ

問われる人間・生命の尊厳

10月12日 、 パ リ の エ リ ゼ 宮 ( フ ラ ン ス 大 統 領 府 ) か ら 演 説 す る マ ク ロ ン 大 統 領 = テ レ ビ 映 像 よ り 、 A F P 時 事

フランスのマクロン大統領は先月末、憲法に自発的人工妊娠中絶(IVG)の権利を盛り込む意向を表明した。フランスでは中絶は合法化されているが、憲法には明記されていない。国内最大の宗教勢力であるカトリック教会は正式に強い懸念を表明したが、その影響は限定的といえる。(パリ・安倍雅信)

マクロン大統領は先月29日、女性のIVGの権利を憲法に盛り込むプロセス開始を表明した。その2日後、西部レンヌのピエール・ドルネラス大司教が強い懸念を表明した。同司教は仏司教協議会の生命倫理に関する作業部会の責任者を務める。

さらに仏カトリック協議会は南西部ルルドで司教総会を開き、その結論を11月7日、「すべての命はこの世界への贈り物。憲法に中絶の自由を盛り込むことに関するフランス司教の声明」と題してホームページに掲載し、懸念を表明した。

マクロン氏は今年3月8日、「国際女性の日」に憲法に中絶の権利を含めることを約束していた。フランスでは1974年に通称ヴェイユ法として妊娠中絶が合法化され、2018年には中絶の権利保護の強化、罰則廃止が行われている。

米国では昨年6月、連邦最高裁が女性の人工中絶権を合憲としてきた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆す判断を示した。中絶の是非を巡る議論が米国で再燃したことにフランスが衝撃を受けた経緯がある。

大統領を支持する中道派と左派は、IVGの権利を憲法に明記することで、論争に終止符を打とうとしている。これは半世紀にわたり、左派が主張してきたことだが、これに真っ向から異議を唱えたのがカトリック教会だ。

カトリック協議会は声明で、「フランスでは2022年、72万3000件の出生と23万4000件以上の中絶が確認された。これは欧州連合(EU)における悲しい記録だ。この劇的な現実は、女性の権利という単純な問題を超えており、それは進歩とはいえない」と強調。さらに「これを何より人々への社会的、経済的、人的支援が失敗していることの表れとみるべきだ」と主張した。

国立統計経済研究所(INSEE)によれば、23年9月に1日平均1896人の出生が確認され、暫定値で前年同月比7・9%減少した。今年の最初の9カ月間を累計すると、23年の出生数は前年より約4万人、7・3%減少し、戦後最悪の減少となった。

少子化と中絶を結び付けるのは、フェミニストたちの反発を招くのは必至だが、カトリック教会の声明は「すべての生命は世界への贈り物であり、その始まりから自然な終わりまで感謝して受け入れ、奉仕されるべき」という基本認識を示した。

ドルネラス大司教は「国家元首は国民投票ではなく法案の可決という道を選択することで、この国から必要な議論を奪っている」と批判した。さらに「中絶問題について冷静に議論する能力の弱さを認めることであり、何よりもこれによって生じる法的矛盾を懸念する」と主張。個人の尊厳やプライバシーを保護する条文と矛盾するとし、「中絶は生きる権利の例外を設けることになる」と強い懸念を表明した。

一方、仏世論調査機関IFOPが7月に実施した調査では、83%が中絶の合憲化を肯定的に評価(30年前は67%)。16~74歳までのフランス人の3分の2(66%)が一定の制限下での中絶を支持し、これはドイツ人の49%より多い。

このため、IVG権利の合憲化を懸念するフランス人は依然、限定的と言える。中道右派もIVGを容認する世論が大勢を占め、特にカトリック教会の主張は劣勢に回っていることがうかがえる。

先進医療が整備されたフランスだが、自宅で薬品によって中絶するケースもあり、実態は把握されていない。人間・生命の尊厳は世界各地で紛争が起こる21世紀において重要性を増している。その一方で、中絶の権利を完全に生命の尊厳と切り離すことができるのか。少数派であってもカトリック教会は普遍的問い掛けをし続けていると言える。

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