フランスで高まるテロの脅威 ハマスが「聖戦」呼び掛け 最高水準の警戒態勢に

4日、パリで演説するフランスのマクロン大統領 (AFP時事)

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルを大規模攻撃した7日以降、ハマスは世界のイスラム教徒に「聖戦(ジハード)」を呼び掛けた。欧州で最も多くのユダヤ系、アラブ系移民を抱えるフランスでは、政府が禁止したパレスチナ支持の抗議デモが決行され、北部アラスの高校で発生した襲撃で教師が殺害された。フランスは最高度のテロ警戒態勢に入った。(パリ・安倍雅信)

ハマスの元トップ、ハリド・メシャール氏は、13日を「聖戦の日」とし、イスラム世界全体にパレスチナ人を支援する抗議活動を行うよう呼び掛けた。

ダルマナン仏内相は12日、「治安を乱す恐れがある」との理由で親パレスチナデモを禁止し、違反者を逮捕するよう命じた。だが、政府の禁止命令にもかかわらず、パリでは同日、3000人以上がレピュブリック広場でパレスチナ支援の抗議活動を行い、その後も断続的に集会やデモが行われている。

同内相は、ハマスの攻撃が開始されて以来、在仏ユダヤ人コミュニティーに対するネット上での恐喝や対面の侮辱など100件を超える反ユダヤ主義的行為が確認されたと発表。すでに24人が逮捕され、オンライン憎悪報告プラットフォーム「ファロス」は、2000件以上の報告を受け取ったとしている。

アラブとユダヤの2大社会を抱えるフランスでは、過去にイスラエル情勢の不安定化でテロが起きている。2014年のイスラエル軍によるガザ地区への大規模攻撃で住民2200人が犠牲になった悲劇の翌年、パリでは1月に風刺週刊紙シャルリー・エブド編集部襲撃事件、11月には同時多発テロが発生した。

フランスは15年に起きた過去にない大規模テロの後、2年にわたり非常事態宣言が出され、テロ対策強化に追われた。今回、英国や米国などでパレスチナ支持のデモが許可される中、仏政府は過去の経験からデモや集会の禁止を迅速に決定した。

一方、仏北部アラスの高校で13日、チェチェン出身の20歳の男が「アラー、アクバル」(アラーは偉大なり)と叫びながら、教師1人を刺殺し、職員3人を負傷させるテロが起きた。容疑者の男はイスラム過激組織との接触が確認されており、今月から国内治安総局(DGSI)の要注意監視リストに登録されていた。

容疑者でテロを実行した男は、11歳の時、家族とともに仏西部レンヌの南にある家で拘留されていた。当時のヴァルス首相は14年、人道団体などの要請に応え、家族の拘留を中止した。仏国籍を持っていなかった男は、21年3月に難民・無国籍者保護局に亡命申請したが、却下されていた。

このテロ事件を受け、マクロン大統領は13日に緊急安全保障会議を招集。16日にはボルヌ首相の下で特別部隊最大7000人の動員を決定し、最高水準の緊急テロ警戒態勢に引き上げた。ラグビーのワールドカップ(W杯)開催中だが、街には警官と兵士で溢れている。

フランスは、シリアやイラクに過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員を欧州で最も大量に送り込んだ国であり、国内で貧困と差別に苦しむアラブ系移民は、過激派の戦闘員に勧誘されやすい。IS戦闘員はシリアで足場を失い、今はリビアや西サハラなどアフリカで活動するか、フランスに帰国しているのも不安材料だ。

仏世論調査会社IFOPによると、ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃に、85%が「戦争犯罪」と批判したが、在仏イスラム団体の指導者はコメントを控えている。現在進行中のイスラエル軍による攻撃は、ライフラインを絶たれたガザ住民には人道的に過酷過ぎるとの見方が一般的だ。

今回の戦争で世界各地のイスラム教徒は結束を強めており、イスラエルによるガザ地区への本格的な地上侵攻は、フランスでも確実にテロの危険を高めることになる。

spot_img
Google Translate »