NATOの核共有 抑止力強化へ投下訓練も【連載】核恫喝時代―日本の選択(8)

核抑止に焦点を当てたNATOの年次軍事演 習「ステッドファスト・ヌーン」に参加した 米空軍のF15 = 2022年10月18日、オランダ・ レンワルデン空軍基地(NATO提供)

欧州では、冷戦時代からソ連の核に対抗するための抑止力として、北大西洋条約機構(NATO)の一部の国で米国の核が「共有」されてきた。核攻撃への不安が高まる中、核配備基地の整備が進められるとともに、核抑止に関する軍事訓練も毎年実施されている。

NATOが昨年2月のファクトシート「核共有制度」で明らかにしたところによると、核共有に参加しているのは7カ国。国名は明らかにしていないが、シンクタンク、全米科学者連盟(FAS)の核情報プロジェクト・ディレクター、ハンス・クリステンセン氏によると、うち5カ国は従来、参加が指摘されてきたドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、米国、残りの2カ国はトルコとギリシャとみられている。

FASによると、核が配備されているのは、ギリシャを除く5カ国の6基地で100~150発程度、攻撃時に使用される航空機は核搭載能力を備えた戦闘機F15、F16、戦闘攻撃機トーネードとされている。

クリステンセン氏によると、使用されるのは自由落下爆弾で小型の「W61」。今後は精度の高いW61-12に移行する予定で、出力は0・3~50㌔㌧の間で変更可能。広島に投下された原爆は16㌔㌧程度とされ、出力を上げれば、一発で都市一つを壊滅させるには十分な規模だ。クリステンセン氏は「精度を上げることで、出力を下げ、放射能汚染などの被害を抑制できる」と指摘している。

NATOは、「核共有制度は、同盟の抑止・防衛態勢の中心」とする一方で「核抑止任務とそれに関連する政治的責任と意思決定の共有であり、核兵器の共有ではない」としている。

攻撃の実施には「(NATO加盟国で構成する)核計画グループ(NPG)による承認と米大統領と英首相の承認」が必要。攻撃の決定が下されると、核を管理している米軍から各国部隊に移送されるが、あくまで核兵器は米国のものであり、実施に当たっては米国の意向が強く反映される。

ドイツなど5カ国では、使用機のステルス戦闘機F35への更新を進めており、今後「能力は大幅に向上する」(クリステンセン氏)。また、配備基地の近代化とともに、核抑止に関する年次軍事訓練「ステッドファスト・ヌーン」を実施、各国の戦闘機、爆撃機が参加し、投下訓練などが行われている。

一方、保管する核兵器が攻撃の標的になる懸念もあり、参加の是非を巡って各国内でも議論がある。ドイツでは2021年9月の総選挙で争点の一つとなり、米ブルッキングス研究所は、「主要3党のうち2党は核共有を終わらせ、核兵器を撤収させることを望んでいる」と指摘している。NATOのストルテンベルグ事務総長は同年11月、「核共有は、核武装した敵国にNATOが一枚岩であることを示す上で重要であり、欧州にとって特に重要だ」と参加継続を求めた。

半面、ロシアのウクライナ侵攻を受けて緊張が高まっているポーランド政府は、核共有への参加を求めている。ポーランド紙ガゼタ・ビボルチャによると、モラビエツキ首相は今年6月30日、ロシアがベラルーシへの戦術核配備の計画を発表したことを受けて、「核共有プログラムへの参加」を要請した。

日本では、ウクライナ侵攻後、安倍晋三元首相が核共有について「議論していくことをタブー視してはならない」と述べたものの、すでに米国の「核の傘」があること、核への拒否感が強く、配備した基地が攻撃の標的となる懸念などから議論は進んでいない。(本田隆文)

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