昨年2月、国連安保理の常任理事国であるロシアが隣国ウクライナへの侵略を始めたことで、戦後の国際秩序の中心だった国連(安保理)が事実上、機能不全に陥る中、自由と民主主義の価値観を共有する主要7カ国(G7)の枠組みの重要度が増している。
特に対露制裁とウクライナ支援に関し、昨年の議長国ドイツはオンラインも含め12回の外相会合を開いて調整された対応を主導した。また、世界経済問題に対する政策協調でも、G7の経済的な影響力の低下に伴い、G7諸国にロシアや中国、ブラジル、南アフリカ等が加わった20カ国・地域(G20)の役割が大きくなったが、ロシアのウクライナ侵略後は合意の形成が困難になり、G7の重要度が再び高まっている。
ロシアによるウクライナ侵略により「国際社会は歴史的な転換点にある」とみる岸田文雄首相も、G7が「(ロシアのウクライナ侵略に際し)最も効果的に機能したグループ」だと評価。今年のG7議長国として、広島サミットでは「力による一方的な現状変更の試みは認められない」などを原則とする、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化」を強く発信する。
エネルギーや食料の供給を「武器」として対露制裁やウクライナ支援に参加する諸国の分断を図るロシアに加え、米国に対抗し軍事力と経済力を押し立てて世界秩序の再編を企てる中国の「仲裁」の動きもあって、米国と欧州はもとより、欧州の中でもロシアや中国との関係に温度差が出ており、日本は議長国として、対露制裁とウクライナ支援において、より踏み込んだレベルでG7の結束を示すことができるかが問われている。
また、米国が主導する先端半導体の対中輸出規制、同じく中国を念頭に経済安全保障の観点から重要性が高まるサプライチェーン(供給網)の強化についても、月末に開催される新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の閣僚級会談に向けて首脳レベルの合意を導きたい。
このような対中・対露包囲網を固める中で、首相が力点を置くのが「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国との連携強化(橋渡し)だ。広島サミットには価値観を同じくする韓国、オーストラリア、G20議長国のインドに加え、ブラジル、インドネシア(東南アジア諸国連合=ASEAN=議長国)、コモロ(アフリカ連合総会議長国)など8カ国を招待。これら8招待国が参加する拡大会合も3回に増やし、招待国と共同での成果文書の取りまとめも検討中という。どのような連携強化の枠組みができるか、注目される。
岸田政権は、安倍晋三、菅義偉両政権が「自由で開かれたインド太平洋」構想に基づいて発揮したインド太平洋地域の秩序形成におけるリーダーシップを世界的な規模に拡大する準備を進めてきた。「法の支配」を強調した「自由で開かれた国際秩序」構想に基づくグローバルサウスとの連携強化はその実践といえる。
G7での日本の立ち位置を考えるとその方向性は正しいのだろう。ただ、該当諸国の多くは歴史的に中国やロシア(旧ソ連)との関係が深く、西欧諸国の価値観に対する懐疑も根強く、ウクライナ侵略による食料品やエネルギー高に苦しんでいるが、「G7の制裁が原因」というロシアの宣伝の影響も浸透している。付け焼き刃の対応では実効性は期待できない。
今年50周年を迎えるASEANとの友好協力を一層強化して足元を固めつつ、アフリカ開発会議(TICAD)などを活用し、各国の実情を踏まえた戦略的な努力が必要だ。(政治部・武田滋樹)