【連載】ウクライナ侵攻1年 識者に聞く 北方領土返還の好機も 米ジェームスタウン財団上級研究員 ヤヌス・ブガイスキー氏(下)

核使用の可能性は低い

バイデン米大統領(写真左)とウクライナのゼレンスキー大統領(写真右)=ウクライナ・キーウ、2023年2月20日(UPI)

――ウクライナ戦争へのバイデン政権や欧州諸国のこれまでの対応をどう評価するか。

10点満点で7点ほどだ。バイデン政権はもっと早くから、ウクライナがロシア軍を抑止、阻止、撃退するために必要な兵器を供給するべきだった。小出しの支援によって、何万人ものウクライナ兵と市民がロシア軍の犠牲になってしまった。その意味では評価は低い。

しかし最終的にはウクライナが必要とする兵器が提供されることになった。長距離兵器や戦車、弾薬、防空システムなど、ウクライナが求めていたより近代的な兵器などだ。逆説的だが、ウクライナがこれらの武器を早く手に入れれば入れるほど、戦争は早く終わり、犠牲者も少なくなる。

バイデン政権は、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)の結束を高める役割を果たした。それがなければ、ロシアは増長し、ドイツやフランスに妥協し、ウクライナに領土を明け渡すよう圧力をかけただろう。

――プーチン氏が実際に核兵器を使用する可能性は。

ロシアが威嚇していると思われるのは戦術核兵器の使用だが、問題は戦場で部隊が集中している場合、戦術核を使用すると、より広い範囲が汚染され、自国の部隊により大きな打撃を与える可能性があることだ。なぜなら、風向きは西から東に吹いていて、自軍の放射能汚染はウクライナよりさらにひどくなる可能性があるからだ。このため実用的ではなく、実際に使用する可能性は極めて低い。

――プーチン氏による先月下旬の年次教書演説をどう受け止めたか。

プーチン氏は、自らがロシアの歴史家の代表であると思い込んでいるようだ。旧ソ連国家保安委員会の元工作員だった同氏は、かつては共産党、今ではロシア正教会から歴史を学んでいるが、非常に歪(ゆが)んだ帝国主義的な歴史観で、根拠に乏しいものだ。

プーチン氏は弱々しく見えた。強いカリスマ的人物ではない。何かしらの病気を持っているようだ。80歳のバイデン氏のワルシャワでのスピーチのほうが、むしろより力強く、説得力が感じられた。

――ロシア正教会トップのキリル総主教がウクライナ戦争を支持しているのはなぜか。

ロシア正教会はクレムリンと密接に結び付いており、プーチン氏の帝国主義的政策の一翼を担ってきた。国家主義的というだけでなく帝国主義的な組織だ。キリル総主教は近隣のさまざまな管轄教会を統括してきた。

しかし、ウクライナ正教会は2018年にイスタンブールのエキュメニカル総主教庁によってロシア正教会から独立した教会として認められた。ウクライナ正教会は自らの「歴史」を取り戻したことになる。ウクライナの正教会のルーツは、モスクワがまだ存在しなかったキエフ・ルーシー公国の時代である10世紀までさかのぼるのだ。

これは、キリル総主教にとっては多くの教会や信者を失い、大きな損失となった。一方で、このことは他の正教会が自らの自由や独立のために動くことを促すものだ。

(聞き手=ワシントン・山崎洋介)

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