【連載】ウクライナ侵攻1年 識者に聞く 北方領土返還の好機も 米ジェームスタウン財団上級研究員 ヤヌス・ブガイスキー氏(下)

社会不安増大で露連邦解体へ 米ジェームスタウン財団上級研究員 ヤヌス・ブガイスキー氏(上)

――メドベージェフ前露大統領は最近、ウクライナ戦争に負ければロシアが消滅すると語った。

メドベージェフ氏だけでなくプーチン氏も、戦争に負ければロシアは崩壊すると述べている。自分の国が崩壊する可能性を語ることは、自分の決断や将来について、不安で不確かなことを示している。クレムリン(大統領府)では、戦争に大敗すれば今度はロシア内部で経済、社会、政治的な危機が起きるという恐怖心が広がっているのだろう。

彼らはまた、動員された兵士たちが武器を持って国に戻って来ることで、民兵が生まれるとも述べている。すでに、民間軍事会社ワグネルと国防省や軍との間で内紛が起きているとされている。

一方でチェチェン共和国のカディロフ首長は今後もモスクワに忠誠を誓い続けるとは限らず、ロシアで暴力的な内戦が起きる見通しは高まっている。ロシア帝国が崩壊した時に目撃したことと同じだ。1916~17年にロシアがドイツとの戦争に負けて撤退し始めた時、多くのロシア人が皇帝に反抗し、ボルシェビキがついに権力を掌握するまで内戦は続いた。

全く同じ道をたどるとは思わないが、ロシア連邦のさまざまな場所で戦争や紛争、権力闘争が起きることが予想される。

――今後、日本が北方領土を取り戻す機会はあるか。

もちろんだ。ロシアが支配する国境沿いの領土の多くは、ある時期に他国から一方的に奪ったものだ。

北方領土は、東アジアにおけるその最たるものだ。ロシアが解体され、独立した政府が出現すれば、多くの国がロシアとの国境に目を向けるだろう。恐らくその時こそ、領土回復を図る絶好の機会だ。

北方領土だけでなく、樺太もかつて日本のものであったことを覚えておいた方がよい。多くのことが再検討されることになろう。

日露首脳会談の冒頭であいさつする安倍晋三首相(当時、写真右)。左はロシアのプーチン大統領

もし地元が独立を目指すのであれば、日本はその国と新たな関係を築く絶好の機会だ。米国や韓国、あるいは台湾、フィリピン、豪州、カナダとも密接に協力し、これらの新しい国々を、より繁栄した太平洋地域へと導くことができる。

日本は、ロシアの領土をめぐる中国の野心にも警戒するべきだ。日本は地域に安定をもたらす重要な勢力となり得る。単に北方領土を取り戻すという問題ではなく、安定的な投資や富の創造、新しい国々との交流をつくり出す可能性がある。

――中国は今後、どう動くか。

中国は必ずしもロシアの敗北を望んでいないだろうが、それを防ぐためにできることは多くない。そこで今後、ロシアが弱体化した場合に、その状況をどう利用するかということに目を向ける可能性がある。中国が帝国主義的野心を持っているのは、19世紀に中華帝国が弱体化していた時代にロシアが奪った領土、つまり極東のアムール、ウスリー地方などの地域だ。

ロシアが弱体化するほど、中国はこれらの領土の返還を要求するか、影響力を拡大しようとする可能性が高くなる。そして、最終的には中国は北極海へのアクセスを望んでいる。 

この地域で日本や米国、カナダなどはより積極的でなければならない。なぜなら、例えば新たな国家となる可能性がある極東のサハ共和国は、北極海に面しているからだ。それは、金やレアメタル、ダイヤモンドの膨大な埋蔵量を持つ広大な国となる可能性がある。周辺諸国は、この地域とどう協力できるかをよく検討するべきだ。

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