【連載】ウクライナ侵攻1年 識者に聞く 社会不安増大で露連邦解体へ 米ジェームスタウン財団上級研究員 ヤヌス・ブガイスキー氏(上)

初秋までにロシア敗北も

――ウクライナ戦争は、今後どう展開するか。

 ウクライナ側が現在準備している大規模な反攻作戦を実行する場合、春から夏にかけてが、最も重要な時期になる。ウクライナが必要な武器を得て、英国やポーランドなどで軍事訓練を受けている軍が投入され、大規模攻勢が成功すれば、恐らく南東部ザポリージャがまず解放され、東部ドンバスとクリミア半島に相当な圧力がかかるだろう。

 ウクライナが目指すのは、クリミアへの軍事補給を断つことだと思う。だから、アゾフ海に沿って大規模な攻勢をかけ、ロシア軍をできるだけ後退させ、分断を図ることが予想される。

 ただ、成功にはウクライナが約束された各種兵器や弾薬を入手し続けることが条件だ。ウクライナはこれまで弾薬が不足していたため、非常に控えめに使用しなければならなかった。

 ウクライナの要望に耳を傾け弾薬を供給すれば、ロシア軍は敗北し、ウクライナ全土から追い出されるはずだ。晩夏から初秋までには、その答えが出るだろう。

 ――もしプーチン氏が失脚した場合、後継者はどんな人物になると予想するか。

 後継者が誰になるとは言い切れない。ロシアの問題の一つは、何かあったときに地位を継承する人物の順序が決まっておらず、プーチン氏に代わる指導者が準備されていないことだ。まさにワンマンショー、非常に個人に依存した独裁政権なのだ。

 プーチン氏が失脚するとすれば、可能性が高いのは軍かFSB(連邦保安局)によるクーデターだ。エリート間や軍内部での権力闘争によるもので、必ずしも一晩で終わるとは限らない。

 クーデターの結果、明確な指導者が現れないまま権力闘争が続けば、モスクワが地方をコントロールする力はますます弱くなり、ロシアという国家の存続を脅かす要因の一つになろう。

 ――どのようなロシア解体シナリオを想定しているか。

モスクワでは権力闘争やクーデターが起きる可能性がある一方、自分たちの予算や資源をコントロールしたい地域は、より大きな自由や独立、主権を得ようとしている。

こうした地域の首長は今後、敗戦や権力闘争、経済崩壊で混乱するモスクワに従うか、それとも地元住民に目を向けるか、選択を迫られるだろう。ロシア連邦には21の共和国があり、そのうち14の共和国ではロシア人が人口の少数派を占めている。特に北コーカサスやボルガ川中流域、あるいは太平洋沿岸、南シベリアなどの共和国の中から、独立に向けての最初の動きが起きると予測している。

解体シナリオについては、「ユーゴスラビア・シナリオ」と「ソビエト・シナリオ」の混ざり合ったものになるだろう。ユーゴスラビア解体では、すべてではないまでも多くの場所で激しい紛争が起きた。ロシアもこうした道をたどる可能性がある。

一方でソ連崩壊の時は、多くは暴力的ではなかった。独立に動く共和国をソ連内にとどめようとする試みはあったが、失敗に終わった。つまり、モスクワは全土に軍隊を展開し、すべての領土を支配下に治めることができなかったのだ。今後、ロシアでも同様のことを目にするだろう。(聞き手=ワシントン・山崎洋介)

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