【連載】ウクライナ侵攻1年 識者に聞く 勝てぬ露大統領 大きな戦いへ 国際関係アナリスト 北野幸伯氏(上)

ミサイルの攻撃によって破壊された住宅=ウクライナ、ドニプロ、2023年1月17日(UPI)
きたの・よしのり 1970年生まれ。19歳でモスクワに留学。96年、モスクワ国際関係大学卒業。99年、メールマガジン「ロシア政治経済ジャーナル」(RPE)創刊、2015年「まぐまぐ大賞」で総合1位を受賞。18年、日本帰国。著書に、『プーチン最後の聖戦』(集英社インターナショナル)、『日本の地政学』(育鵬社)、『黒化する世界』 (扶桑社BOOKS) など多数。

――ロシアが昨年2月24日にウクライナに侵攻した。戦争の経過をどう見るか。

時系列で追っていくと、ロシアが徐々に劣勢になっていることが分かる。

プーチン大統領は当初、ごく短期間で勝利するつもりで、この侵攻を「特別軍事作戦」と名付け、「戦争」と呼ぶことを禁止した。

最初のターゲットは、ウクライナの首都キーウだった。しかし、電撃戦の失敗を悟ったプーチン氏は3月末、戦力をウクライナ東部に集中し始める。目標は、ルガンスク州、ドネツク州を完全制圧し、5月9日の戦勝記念日で「勝利宣言すること」に変わった。しかし、できなかった。

9月11日、ロシア軍はルガンスク州、ドネツク州の北隣に位置するハリコフ州の戦いで大敗を喫した。衝撃を受けたプーチン氏は、二つの重要な決断を下している。一つは、「動員令」を出したこと。これによって一般人も戦場に送られるようになった。もう一つは、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州を併合した。

11月11日、ウクライナ軍は「新ロシア領」ヘルソン州の州都ヘルソン市を奪還することに成功する。併合した州の州都をたった40日で奪われ、激怒したプーチン氏は、ウクライナの電力インフラへの攻撃を開始した。戦場で勝てないため、極めて残酷な方法で対抗している。

――苦戦にもかかわらずプーチン氏はなぜ戦争をやめないのか。

戦争をやめることができないのは、プーチン氏の命に関わる問題だからだ。ロシアのような独裁国家では、敗戦は、独裁者の失脚、逮捕、あるいは死に直結していく。

例えばウクライナ軍が昨年11月、ヘルソン市を奪還した後、プーチン氏のメンターと呼ばれる地政学者アレクサンドル・ドゥーギン氏は、「領土を守れない支配者は殺される」という意味の発言をした。実際、これまで支持基盤だった極右、保守層は、勝てないプーチン氏に幻滅、失望している。

つまりプーチン氏は「自分自身の権力と命を守るため」に、この戦争に勝利しなければならない。

――北大西洋条約機構(NATO)の米英独の主要国がウクライナへの攻撃型戦車の供与を決めたが。

「大きな戦い」が近づいている。プーチン氏は1月、ゲラシモフ参謀総長を、ウクライナ特別軍事作戦の総司令官に任命し、「3月までにルガンスク州、ドネツク州を完全制圧せよ」と命じた。つまり軍のトップが直接指揮を執る。ロシア軍は、ルガンスク州全土を支配下に置いているが、ドネツク州は、まだ半分程度しか制圧できていない。だから、ドネツク州で大きな戦いが起こるのだろう。

ウクライナの北隣のベラルーシでは1月半ばから2月にかけてロシア軍とベラルーシ軍が合同軍事演習を行った。ロシア軍は、ベラルーシ領から、再びキーウに進軍する可能性がある。そうすれば、ウクライナ軍の戦力を、北と東に分散させることができるからだ。ウクライナのゼレンスキー大統領も、このような動きを知って、欧米に戦車の供与を急がせたのだろう。間に合うか、微妙なところだ。

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