この9月に中央アジア、ウズベキスタンのサマルカンドで行われた上海協力機構(SCO)総会は、ロシアのウクライナ侵攻後初の中露首脳会談が行われる場として大きな注目を集めた。
実は筆者はウズベキスタン大統領府からこの総会で議長を務めるウズベキスタン大統領の取るべき姿勢について、中央アジア専門家としての事前のアドバイスを求められていた。これに対し筆者は、世界最大の地域協力機構に成長しつつあるSCOが世界の信任を得るためにも、「ウクライナ戦争即時停戦」の議長声明を出すか、主要メンバー国から同様趣旨の発言を引き出すための根回しをすることを提案した。後日、筆者のコメントが議長である大統領の「手許資料」に採用されたとの連絡があった。他の国からのアドバイザリーリポートにも筆者と同様の見解のものがあったもようである。
われわれの意見がどう影響したかは分からないが、結果的には、プーチン大統領の中国・インドとの個別首脳会議で「ウクライナ危機に関するそれぞれの国の懸念は理解できる」という発言を引き出した。
このインド、中国との首脳会談では、モディ・インド首相から初めて「今は戦争の時ではない」との公式の発言が行われたほか、表面的には蜜月状態を演出してきた中国の習近平主席が、これまでいつも出している「中露首脳会談声明」を見送り、さらには首脳晩餐(ばんさん)会を欠席して早々に北京に帰国するなど異例のことが相次いだ。中印両国ともロシアの主張するウクライナ侵攻の正当性・推進姿勢とは一線を画す態度、特に直接の軍事的支援の回避を明確にしたと言える。
ロシアから兵器の60%以上を輸入する最大の同盟国インドの首相による明確な態度表明は国際的に大きな影響があった。また、中国の「環球時報」や外交研究家も「ウクライナとの戦争に中国を巻き込もうとするロシアの試みに習主席は断固反対した」と解説している。
筆者はこれまで、本紙などでプーチン大統領にとって、今回のウクライナ侵攻は西側の北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大阻止や親露政権の樹立だけが目的なのではなく、副次的に中国の習近平政権の「一帯一路」政策と気脈を通ずる政権は痛い目に遭うことを他の東欧・中央アジアの旧ソ連圏の国々に見せつけようと画策した気配が濃厚、との見方を示してきた。理由は、中国の旧ソ連圏における急速な「一帯一路構想」の展開が、先にスタートしたロシア主導の地域経済協力機構「ユーラシア経済共同体」計画を頓挫させてしまっているからである。
もちろん、中国はこのロシアの実質的な反「一帯一路構想」的行動に気が付いており、これをより協調的な姿勢に改めるべきだとの暗黙の警告が、今回のSCO総会での態度硬化の要因の一つとなっていると考えられる。
対米国、対NATO上は「中露蜜月」の看板を維持したまま中国のこれ以上の進出を抑制するような対応を続けなければならないロシアだが、インドとともに天然ガスを大量に買ってくれる中国だけが唯一外交上の頼りでもある。
ウクライナ南部のへルソン市が奪還されるなどロシアの軍事的な劣勢が伝えらえる中、ウクライナを要衝として「一帯一路」構想を成功させたい中国には、ロシアの窮状を逆手にとって自国に優位に運ぶようにロシア・ウクライナ・米国・EU・NATO間の交渉に関与する可能性が残されている。