露正教会 侵攻めぐり大揺れ

ナンバー2解任 ウクライナ正教会が離脱

ロシア正教会トップのキリル総主教=1月6日、モスクワ(AFP時事)

ロシア軍のウクライナ侵攻を主導するプーチン大統領を一貫して支持してきたロシア正教会最高指導者、モスクワ総主教キリル1世(75)に対して正教会内外から批判の声が高まっている。ここ半月余りで2件の大きな出来事がロシア正教会を直撃。モスクワ総主教府管轄のウクライナ正教会がモスクワから離脱宣言し、総主教府の実質ナンバー2が解任された。(ウィーン・小川 敏)

ウクライナ内のモスクワ総主教府寄りのウクライナ正教会が先月27日、モスクワ総主教府の管轄から離脱を決定した。理由は「人を殺してはならないという教えを無視し、ウクライナ戦争を支援するモスクワ総主教キリル1世の下にいることはできない」ということ。ロシア正教会は332年間管轄してきたウクライナ正教会を完全に失い、世界の正教会内での影響力は低下、モスクワ総主教にとって大きな痛手となった。

そして今月7日、モスクワ総主教府の実質ナンバー2の対外教会関係局長(渉外局長)のイラリオン府主教(55)が解任された。主教会議(聖シノド)の常任委員の地位をも失い、ハンガリーのブダペスト府主教に異動したことが明らかになった。

イラリオン府主教は2009年から渉外局長を務めてきた。これまでキリル1世の戦争支持を表立って批判したというニュースは報じられていない。ドイツの神学者レギーナ・エルスナー氏は、「イラリオン府主教は表立ってキリル1世のように戦争を積極的に擁護する聖職者ではない。それがキリル1世の目には府主教の弱さ、忠誠心の欠如と受け取られたのかもしれない」と考えている。

キリル1世はこれまでイラリオン府主教を信頼してきただけに、解任はキリル1世にとってもダメージとなるだろう。

キリル1世のウクライナ戦争への立場は明確だ。プーチン大統領のウクライナ戦争を「形而上学的な闘争」と位置付け、ロシア側を「善」、退廃文化の欧米側を「悪」とし、「善悪の戦い」と主張する。

また、ウクライナとロシアは教会法に基づいて一つだと主張し、ウクライナの首都キーウ(キエフ)は「エルサレム」だと訴える。「ロシア正教会はそこから誕生したのだから、その歴史的、精神的つながりを捨て去ることはできない」と主張し、ロシアへの敵対者を「悪の勢力」と呼び、ロシア兵士に闘うように呼び掛けてきた。

キリル1世の言動に対してキリスト教神学界から厳しい批判が飛び出した。神学者ウルリッヒ・ケルトナー氏は、「福音を裏切っている」と非難。東方正教会のコンスタンチノープル総主教のバルソロメオス1世は、「キリル1世の態度に非常に悲しんでいる」と述べ、ジュネーブに本部を置く世界教会協議会(WCC)では、「ロシア正教会をWCCメンバーから追放すべきだ」という声が高まってきた。

イラリオン府主教はオーストリア国営放送とのインタビューで5月24日、「ウクライナ戦争ではロシアと西側では全く異なった見解、情報が流されている。双方が相手の見解に耳を傾けるべきだ。さもなければ双方の溝はより深まり、戦争は拡大していく」と述べている。その発言はキリル1世のような攻撃的なトーンはなく、極めて穏やかだった。

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