ウクライナにロシア軍侵略、安保危機に非核、憲法の蓋
ロシアのウクライナ侵略で冷戦後最大の安保危機が起きている。プーチン露大統領は核兵器使用の恫喝(どうかつ)をして米国など北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入を封じ、かつてない国際的制裁にもソ連時代の耐久戦を引き合いに出して、ウクライナ非武装中立化の目的を通そうとしている。
対岸の火事ではない。ロシアは北方領土の不法占拠を続け、北朝鮮は核開発も弾道ミサイル発射も止(や)めず、軍拡著しい中国は尖閣諸島を狙っている。
衆参両院で対露非難決議が採択され、与野党とも核恫喝と軍事侵攻を強く非難した。日刊機関紙を持つ公明党の「公明新聞」、共産党の「しんぶん赤旗」は、侵攻が始まった2月24日の翌日から連日1面にウクライナ侵攻と対露批判が続いた。批判は当然だ。また各党メディアともウクライナへの人道支援の声は高らかに訴えており、これも極めて重要に違いない。
しかし、平和を叫び戦争を批判する世論は貴重だが、それだけで止めることができないことをプーチン氏が見せつけた。わが国が二の舞にならないとは限らない。かつて冷戦時代にはソ連と親密な社会党が「非武装中立」を「平和主義」と称して掲げ、ソ連の要求に応じようとしていた。
これは、ソ連軍が来たら戦わずに白旗を揚げて社会主義陣営に入ることを意味した。一方、独立を守るためウクライナの人々は今や一般人、女性までもが侵略軍と戦っている。
ロシアの侵略でわが国への脅威も急騰したと考える方が自然だが、この危機感をストレートに訴えたのは日本維新の会の「ロシアによるウクライナ侵略に関する緊急提言」だ。機関紙を持たない同党はホームページで、3日に林芳正外相宛てに提出したと報告しており、防衛費を当面、国内総生産(GDP)比2%に増額、自衛力の見直し、および「ロシアが核による威嚇という暴挙に出てきた深刻な事態を直視し、核共有(ニュークリア・シェアリング)による防衛力強化等に関する議論を開始する」と述べている。
核共有は核保有国と非核保有国が加盟するNATOの核抑止政策だが、米国の核の傘に入るわが国の核共有の道を研究するのは、ロシアが核兵器使用に言及している現実から議論に値するだろう。
だが、維新に対する攻撃を強める「赤旗」(3・4)は、志位和夫委員長が記者会見で「撤回を求める」とした発言内容を1面トップに「日本を核戦争に導く危険 維新は『核共有提言』撤回せよ」の見出しで批判。「公明新聞」(3・2)も山口那津男代表の記者会見を1面トップ「ロシアへの制裁措置 国際社会と結束して」「日本の人道支援後押し」の見出しの記事の中で、「公明党は非核三原則をつくってきた立場である。これからも堅持する」としている。政府として岸田文雄首相も核共有は検討しないと答弁した。
また「赤旗」(3・15)は、自民党大会でロシアのウクライナ侵攻を非難した岸田首相のあいさつについて、「強調したのは、防衛体制の見直し強化と日米同盟のさらなる強化」と批判。自民党の改憲4項目に同紙(3・17)は「危機を口実にした改憲許すな」との「主張」で、「ロシアと同じように、日本が侵略国になる危険を生む」という批判の仕方をしている。
相変わらず憲法と非核の蓋(ふた)をかぶせて荒唐無稽な議論をしている。ドイツは保守政権が終わり政権交代したばかりだが、中道左派政権が防衛力増強とウクライナへの武器供与など基本法改正(改憲)を伴う歴史的な安保政策転換をした。同じ敗戦国の日本の坂の上の雲である。
編集委員 窪田 伸雄