中国の習近平国家主席は来月訪米し、トランプ大統領との会談に臨む。通商問題、安全保障問題など懸案課題の中で急浮上しているのが人工知能(AI)を巡る米中協議だ。8月上旬に中国河北省で開かれた北戴河会議には先端技術者たちが参加し、共産主義イデオロギーを掲げ盤石な体制を築いた習政権が、AIなど経済安全保障で米国に挑む演出が垣間見られた。(外報部)

米中首脳会談は9月24日に予定されている。既に両国間で前哨戦の火花を散らしているのがAI分野だ。中国は7月、「世界AI協力機構」を設立し、ロシア、ブラジル、南アフリカなど29カ国が参加した。米国はオープンAIやアンソロピックのAIで世界をリードするが、ディープシーク(深度求索)やムーンショットAI(月之暗面)など中国のAIに急追されている。
米が接続禁止措置
AIは軍事作戦でも大きな威力を発揮するようになった。今年1月に起きた米軍のベネズエラ攻撃、2月末に米軍がイスラエル軍と共に行ったイラン攻撃で利用された。ウクライナに侵略したロシア軍とウクライナ軍との戦争は、分・秒を争うAIとAIの戦いと言われている。米国は6月、安全保障上の理由からアンソロピックの二つの新AIモデルに対して外国籍者のアクセスを全面禁止する輸出規制措置を取った。
AIを巡り中国は設計を公開するオープンソースを求めており、米国製より安価で各国に売ろうとしている。だが、さまざまな製品で知財権問題を起こしてきた中国に対し、米国の目は厳しい。ベセント財務長官が米メディアに「多くの中国製モデルに米国製のLLM(大規模言語モデル)の透かしが入っている」と発言するなど、米国は中国製AIに警戒している。
米国がAIを安全保障上の戦略資産としてアクセスを閉ざす一方、中国は出入国管理規定を強化し、9月15日からAIや半導体など中国人技術者の出国禁止を可能にした。中国側も技術流出を阻止する構えだ。
米国はAIや半導体などの供給網の安全性を図る経済安全保障の同盟国・パートナー国の枠組みとして「パックス・シリカ」を昨年12月に発足。設立宣言に日本、韓国、オーストラリアなどが署名して参加、台湾も非署名者として参加した。
一方、「世界AI協力機構」設立後の7月末から8月上旬にかけて中国共産党指導部は北戴河会議を行った。秘密会議の同会議は非公式の政策協議・人事調整の場であり、過去には政治抗争の臆測を呼んだが、今や無敵の習氏が来年の党大会で4期目体制を迎えることは既定路線。代わりに注目されたのは技術者だ。
中国メディアは、同会議で習氏側近の蔡奇政治局常務委員が3日、専門家集団慰問に招かれた基礎研究、戦略的先端科学技術、主要技術分野、哲学、社会科学分野の技術者、研究者たち60人と面会したと報じた。主要テーマとされたのは、半導体、AI、次世代通信規格(6G)など科学技術の自立を第一目標に掲げる「第15次5カ年計画」に向けた取り組みだ。
中国や台湾問題に詳しい平成国際大学の浅野和生教授は8日に都内で開かれた講演会で、「中国は新技術や科学技術について世界の主導権を取りたいということをはっきり言っている」と指摘した。
「米国に追随するのではなくてトップに行きたいということは、習近平氏も前から言っている。宇宙開発では月の裏面に行くのも米国に先んじてやるとか、そういうことを目指している。AIでも米国の先に行こうと本気で考えているので、科学者に注目するのは当然ではないか」
片や「パックス・シリカ」を設立した米国は、中国の立ち上げた「世界AI協力機構」をにらみ、各国に「慎重な選択」を要求する方針だ。米中のAI覇権競争が激化する中で、米中AI協議では知財権問題が争点となろう。
価値観AIに反映
北戴河会議は、17日に故江沢民元国家主席の生誕100年記念大会が行われたことから、それまでに幕を閉じたもようだ。演説した習氏は1989年6月の天安門事件の際、江氏が「党中央の正しい決定を指示し、実行した」と述べ、事件での武力弾圧を正当化した。共産主義体制堅持の姿勢は一段と強まっている。
「イデオロギーを中国は重視していて、マルクス・レーニン主義の中国化をはっきりと打ち出している。その中で中国の古典的思想をマルクス・レーニン主義と一体化させて、それをどのように世界にアピールするかを考えている。むき出しのマルクス・レーニン主義ではなく、毛沢東思想でもなく、習近平思想でもない。それをグローバルサウスに対しても日本に対しても浸透させようとしている。今までは保守派とみられていた言論機関にも入り込もうとしている。そのような研究にすごく力を入れている」(浅野氏)
習政権のイデオロギー路線を示した2013年の共産党文書第9号(九号文件)は、自由、民主主義、人権、報道の自由などの西側の価値観の国内浸透を防ぎ、共産党の価値観、歴史観、政治・経済体制を徹底させるものだ。当然、中国製AIに反映されるだろう。







