
中国にとっての悲願である台湾統一は、自国の経済失速と軍幹部の相次ぐ粛清、日米など西側諸国からの台湾への支持などにより遠ざかっている。米情報機関を統括する国家情報長官室は3月18日、世界の脅威に関する年次報告書で「中国指導部は2027年までに台湾侵攻を実行する計画を現在持っていない」と分析した。
一方で、中国軍は莫大(ばくだい)な軍事費を背景に急速に軍備を充実・拡張させている。軍の急速な拡大から、経験の浅い人材が現場に多く出向くこととなり、思わぬ事態に発展する可能性が危惧される。経験豊富な将校などがいれば、仮に他国の軍と一触即発の事態となっても現場の状況を見て加減を判断できるが、経験が乏しい場合は上層部の命令をそのまま実行する可能性も否めない。軍幹部が減少し、習近平国家主席の「意思」が現場に反映されやすくなりつつある中、習氏が脚色された報告だけで現場に命令を下すリスクがある。
米戦略国際問題研究所(CSIS)が23年に公表した台湾有事のシミュレーションでは、24回実施した中のほぼすべてで中国軍の台北陥落は不成功に終わっているものの、2回だけ中国軍勝利のシナリオがあった。一つは米軍不介入の「台湾単独シナリオ」。もう一つが、日本が中立を保ち米軍を支援しない「日本中立シナリオ」だ。台湾有事が万一起きたとき、日本の戦略的姿勢が戦争の結果に致命的な影響を与えることを示唆した。中国からすれば日本人の間に疑米論や厭戦(えんせん)感を強め、台湾有事に関与させないように日本を中立化させれば勝利条件を満たすことになるだけに、日本への浸透工作は重要視される。
来年秋ごろには共産党大会が行われる。強い中国であることを国内外に知らしめるためにも、強硬姿勢を取ることが予想される。習氏が本格的に台湾統一への行動を支持した場合に懸念されるのは、日本に約85万人(2024年時点、法務省調べ)いる在留中国人たちの動向だ。
中国には国防動員法と国家情報法がある。国防動員法では、中国の主権や領土保全などのために人的資源などを平時から軍事目的に投入できる。国家情報法は、あらゆる中国企業、個人などが情報活動に支援・協力する義務を定めており、拒否した場合は処罰の対象となるものだ。在留中国人や帰化した人々には中国本土に親戚がいる人も多い。金銭的な買収だけでなく、親族を人質に取られることも十分に考えられ、国から日本での工作や諜報(ちょうほう)を指示された場合は断るのが難しい。
中国人は日本で中華コミュニティーを形成し、時間をかけて大学や一般企業など日本社会に浸透している。
中国が伝統的に他国から情報を得る方法として、断片的な情報を集め、それを統合して全体像をつかむという手法がある。留学生が先端技術に関連する研究室に入り、そこから情報を抜き取るといったことが行われてきた。
留学生や研究者でもなく、高度な訓練も受けていない一般の中国人が触れられる情報には当然限界がある。しかし、中国人や中国系法人が日本の水源や自衛隊基地周辺の土地・建物を購入していることも確認されている。
昨年12月には中国領事館が在日中国人に対し、日本で自然災害が多いとの理由で、在日中国人に対し完全で正確な情報をアプリに登録するよう求めた。家族構成や中国内の住所、海外での住所を報告するように促している。国防動員法への準備ではないかと疑う声もある。
だからといって、やみくもに中国人を排斥すれば、中国が自国民の保護を理由に介入する可能性もある。中国の工作を正しく恐れ、法整備などで対応していくしかないだろう。
(宮沢玲衣)







