
中国は自国の優位を得るため、日本社会に対する分断工作など、さまざまな方法で浸透工作を仕掛けている。偽情報や誤情報、歪曲(わいきょく)した見方をする情報などで日本人の認知領域にも影響を与えようとしている。中国による工作は、領海や領空を脅かす軍事的なものから、ネット空間、対政治家、教育機関などあらゆる分野に及ぶ。(宮沢玲衣)
中国が認知戦を行おうとするのは、自国の共産主義体制を守るためだ。共産主義体制の国は共産主義に基づいた人間の平等を掲げているものの、実態は権力が指導部に集中し過ぎることで、汚職や腐敗が著しく蔓延(まんえん)している。中国の最高人民法院の張軍院長(最高裁長官)によると、2025年だけで181億4000万元(約4200億円)の不正貯蓄があり、有罪判決を言い渡された閣僚級幹部は57人。ただ、これとて氷山の一角でしかない。
国民が劣悪な環境下にいることを悟らせないためには、自国に不都合な国を攻撃し、自らの言説を国内外に喧伝(けんでん)することが重要になる。昨年9月に中国国営新華社通信のシンクタンクが公表した「思想植民――米国の認知戦の手段・根源及び国際的危害」のレポートの第3章には、「米国の価値観や理念が敵国に入植することで共通認識を瓦解させ、人心を惑わし、分裂させ平和的な転覆によって政権転覆を狙っている」と記されている。中国が民主主義国に対して、中国共産党の一党独裁体制を転覆させる存在として強い警戒感を持つことが分かる。
台湾は2024年、英紙エコノミストの調査部門(EIU)にアジア最高位の民主主義指数と評された。地政学的な位置関係だけでなく、中華民族で唯一、民主主義を成功させたため、中国にとっては非常に「目障り」な存在だ。言語と文化が共通していることから、長年、世論誘導や偽情報の流布によって社会を分断し、政治指導者の政策判断を鈍らせようとする認知戦を中国に仕掛けられてきた。
台湾のタクシーに乗れば、支持政党により全く異なる社会への批評を聞くことができ、中国による長期の浸透工作で分断が進んでいることを肌で感じることができる。
台湾重視の姿勢を隠さなくなった日本に対しても、対台湾と同様の工作を図っている。言語や文化の壁から影響は限定的なものの、人工知能(AI)の発達により洗練されていく可能性があるため油断できない。
2月の衆院選では、有権者の投票行動に影響を及ぼそうと、中国は組織的な投稿をSNSで行っていたことが明らかになっている。中国の対台湾浸透工作の常套(じょうとう)手段に、ネット上で一つの言説を大量に流布させ、それをメディアに取り上げさせ、「報道されたから」と政権を糾弾するというものがある。衆院選では、明らかな間違いが散見される真偽不明の文書にもかかわらず、メディアに「報道された」からと、れいわ新選組や共産党の政治家とその支持者などが高市早苗首相を執拗(しつよう)に責め立てていたことは懸念すべきだろう。
笹川平和財団上席フェローの大澤淳氏は3月13日、SNS分析ツールなどで調査した結果、X(旧ツイッター)上の中国からの影響工作アカウント群には、①高市首相が軍国主義者として流布②社会分断を煽り、琉球独立などの偽情報の拡散③台湾有事では中国軍が有利とする偽情報の拡散―などが見られたと報告した。
これらの影響は限定的だったものの、選挙最終盤から行われた「♯ママ戦争止めてくるわ」などのハッシュタグと共に、戦争を止めるために中道改革連合などのリベラル政党への投票を呼び掛ける影響工作は一定の広がりを見せた。大澤氏は次回選挙では「中国の戦争を取り扱ったナラティブ(物語、言説)は日本社会に浸透する可能性がある」と警鐘を鳴らした。







