トップ国際中国【連載】監視社会の中のウイグル人(下)家族利用した国境越えの弾圧 スパイ防止法含め法整備検討を

【連載】監視社会の中のウイグル人(下)家族利用した国境越えの弾圧 スパイ防止法含め法整備検討を

あいさつする日本ウイグル協会のレテプ・アフメット会長(右)。左は日本ウイグル国会議員連盟の古屋圭司会長=9月30日午後、東京都千代田区(石井孝秀撮影)

 習近平国家主席は9月25日、新疆ウイグル自治区の成立70年を祝う式典に出席した。同自治区の設立記念式典に最高指導者が参加するのは初めてだった。同時期には米国ニューヨークで国連総会が開かれていたため、国連総会への出席よりも自治区の記念式典を優先した形となる。

 同自治区は中国において、食糧生産やエネルギー資源産出の重要な拠点だ。中国経済の後退が叫ばれる中、自治区の長期安定化を望む中国共産党政府の意図が透けて見える。

 先月30日、東京都内で開かれたシンポジウム「有名無実の『新疆ウイグル自治区』成立70周年―中国の民族政策を問う」で講演した法政大学の熊倉潤教授は、ウイグル人たちへ厳しい弾圧を加える理由の一つとして「平和を装い、体制転覆を仕掛けてくるのではないかという中国ならではの発想がある」と指摘する。

 熊倉氏によると、2010年代の中国政府系の研究機関では、イスラム原理主義になびくウイグル人へ欧米が武器支援を行い、中国大都市でテロが起きるのではないかという可能性に「本気で懸念を示していた」という。

 熊倉氏は「中国国民としてのアイデンティティーが希薄なウイグル人を『テロリスト予備軍』として先手を打ち、強制収容所で無理やり共産党を称(たた)えさせるなど、身も心もぼろぼろになるまで人間改造を行ってきた。現在では中国当局側が言うところの『反テロ政策』が成功し、『治安が良くなった』とされている」と説明する。

 「テロリスト予備軍」の芽を摘むという理由で、中国共産党は国外に住むウイグル人たちへの監視と圧力も強めている。日本ウイグル協会のレテプ・アフメット会長は、国境を越えた中国当局からの弾圧を次のように説明した。

 「両親や兄弟など、現地に残っている家族が人質になっている。そして家族からの連絡を介し、中国当局は人権活動やデモ行進など、中国に都合の悪い言動をやめるよう圧力をかけてくる。家族を人質にされて、証言できない人は多い」

 さらには家族を人質に、国外のウイグル人に帰国するよう脅してくるとも証言。言われるがまま帰国して、その後すぐ強制収容所に入れられ、1年後に死亡したケースもあるとアフメット会長は指摘する。遺体が返ってきても、遺族に顔を見せることしか許されないという場合もあり、「体に残った拷問や虐待の跡を見せないためか、移植用に臓器をすべて摘出してしまった後など、幾つかの可能性がある」と懸念を示した。

 同協会によると、国外在住のウイグル人への弾圧は強制収容所が始まった頃から確認されている。2017年にはエジプトに留学していたウイグル人たちが中国へ強制送還された。今年2月には、迫害を逃れるため難民としてタイに脱出後、約10年間拘束されていたウイグル人約40人が中国へ強制送還されている。

 同協会の田中サウト副会長は「日本でもさまざまな国境を越えた弾圧が行われているが、そのことを相談できる窓口がない」と強調。スパイ防止法も含めた、海外からの介入に対する法整備の検討を求めた。

 日本ウイグル国会議員連盟の古屋圭司会長は「おかしいと思うことをはっきり堂々と言う。そこから中国との向き合いが始まるのであり、変な忖度(そんたく)をする必要はない。これからも新疆ウイグル自治区の実態について、幅広く世界に訴えていきたい」と呼び掛けた。(石井孝秀)

【連載】中国監視下のウイグル人社会(上)人も包丁もQRコード管理 現地取材「かつてない〝圧〟」

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