
新疆ウイグル自治区70年シンポ
中国で新疆ウイグル自治区が成立してから70年を迎えた。日本ウイグル協会(レテプ・アフメット会長)と日本ウイグル国会議員連盟(古屋圭司会長)は先月30日、シンポジウム「有名無実の『新疆ウイグル自治区』成立70周年―中国の民族政策を問う」を開き、ウイグル人の伝統文化や信教の自由を弾圧し、「中国化」を進める中国共産党の意図を解説。その中で、2020年~23年にかけて北京特派員として中国に赴任し、新疆ウイグル自治区を直接取材した日本人記者からの報告があった。(石井孝秀)
「中国のほかの地域では感じたことのない、かつてない〝圧〟を受けた」
西日本新聞記者の坂本信博氏は新疆ウイグル自治区を訪れた時の印象をこう表現した。坂本氏はコロナ禍で身動きが取れなかった赴任時当初、中国国内の統計年鑑などを精査し、同自治区内でウイグル人の女性への強制避妊手術が不自然に急増していた事実を突き止めるなど、ウイグル人の弾圧問題に強い関心を抱いていた。
坂本氏は同自治区に足を運ぶに当たり、ムスリム(イスラム教徒)が1カ月間、日中の断食を行う「ラマダン」の時期を選んだという。ムスリムであるウイグル人たちが、ラマダンの時期をどう過ごしているかを調査することで、「より鮮明に現地のことが分かると思った」と話した。
だが、飛行機の搭乗前から不穏な空気が漂っていた。同自治区の特産品の一つである綿の栽培時期であったため、飛行機の窓から綿畑の写真を撮影しようと窓際席を予約していたところ、なぜか空港で「チケットが間違っている」との指摘を受けた。渡された新しいチケットの座席は窓際ではなく、中央の席に変更されていたという。
現地に着くと、「過激な宗教思想に傾倒している」と当局に密告されないようにするためか、ラマダンの時期にもかかわらずウイグルの人々は普通に食事をしていた。ウイグル人に話を聞こうとすると、監視していた漢人男性がそのウイグル人に何か話し掛けた。途端にそのウイグル人は表情を変え、何を聞いても話をしてくれなくなってしまった。坂本氏は「昼夜漢人が私の監視をしていたが、ウイグル人の言動の監視も兼ねていたようだ」と振り返る。
さらに驚いたのは、食堂の調理室などでウイグル人の手にする包丁に全て鎖が付けられ、所有者を特定するためのQRコードが記載されていたことだ。漢人の営業する店にも行ってみたが、包丁に鎖はなかった。
QRコードは包丁だけでなく、ウイグル人の各家の扉にも付けられていた。子供や高齢者も首にQRコードが記されたカードを下げており、当局が特殊なスマホアプリで読み込むと、家族構成などの個人情報がすぐに分かるのだという。それらの状況を見た坂本氏は「おそらく世界で一番QRコードを活用しているのは中国だろう」と述べた。
現在、中国経済が後退し、若者の失業率が上昇するなど中国国民の不満が高まっている。「それを押さえ付けるため、中国共産党当局は経済再生よりも国家安全や言論統制を優先するようになった」と坂本氏は指摘する。
テロ対策の名の下、ウイグル人の人口抑制やイスラム教への締め付けを強めた。法改正によってスパイ行為の定義も拡大しており、中国に不利な報道をした外国人ジャーナリストの拘束も懸念されている。
坂本氏は国内外のメディアと協力して情報を共有したり、行けなかった場所へ代わりに取材してもらった経験を話した上で「人間の本質に関わる問題ならば、メディアは連携して取り組むべきだ」と訴えた。






