
女性漫画家・たつき諒(りょう)氏(70)の予知夢で「今年7月5日に日本で大地震や大津波が発生する」との予言が書籍や国内外のSNSで急速に拡散している。香港では有名な風水師らが同予言を紹介しながら香港から東北エリアの日本、韓国、アラスカで地震が起こると煽(あお)り、香港から日本各地の地方空港を往来する航空便の減便、欠航が相次いでいる。日本の気象庁は「根拠のない非科学的なデマ」と否定し、冷静な対応を呼びかけている。(南海十三郎)
発信元は、たつき諒著「私が見た未来 完全版」(飛鳥新社)というコミック本で、たつき氏が2021年に見たとされる予知夢の内容だ。日本とフィリピンの中間の海底が破裂し、日本の太平洋側に東日本大震災の3倍ほどの巨大津波が押し寄せる予言としてアジア各国で混乱を招いている。香港では中国語版が出版され、今年5月には発行部数100万部を突破する異常な売れ行きだ。
原著は1999年の出版。絶版後、20年ごろ、「大災害は2011年3月11日」との予知夢が東日本大震災を言い当てていると騒がれ、22年ぶりに復刻・再編集された経緯がある。
1999年7月に「アンゴルモアの大王が現れる」とした五島勉著「ノストラダムスの大予言」を彷彿(ほうふつ)とさせ、同書は終末思想で善悪交差する不安を煽り、オウム真理教のサリン事件などにも影響を与えたとされる。
地震大国の日本がいつ大地震が起こってもおかしくない時期だけに社会不安を煽り、中国の台湾軍事侵攻の可能性、中国の圧力が強まる香港では社会不安が予言を通して暗澹(あんたん)たる潜在的不安として流言飛語が風水師の発言と相まって深層心理的に悪影響を与えている。
香港の有名な風水師たちのここ10年の動向を見ても、日本で大地震が起こることを予言している内容は非常に多い。香港のメディアに頻繁に登場する風水師たちは毎秋、次年度の運勢や各国の運勢を新刊書籍で紹介し、日本や台湾で地震が起こると予言し、実際に当たったと自賛するケースが後を絶たず、外れたことは沈黙を通す。
香港の風水師である李丞責(りじょうせき)氏は「2025年(巳〈み〉年)は日本にとって易では山地剥(さんちはく=崩壊寸前の危機の時)で大地震で大型の高層建築が破壊される」と話し、香港の女性風水師・七仙羽氏(本名・趙玲)は24年末に「地震が起こるので25年4、5月は日本に行くべきではない」と発信し、香港人で日本への旅行を計画していた人々の一部がキャンセル。その後、「日本では4、5月に地震が起きたので7月は起こらないだろう」と発言を修正し、香港人の日本旅行を計画している旅行者は右往左往している。
風水師の蘇民峰氏は「25年は香港から見て東北に当たる日本、韓国、アラスカは天変地異が起こりやすいので旅行は避けるべきだ」と話し、女性風水師の麥玲玲氏も「25年旧暦7月、日本・北海道での地震、富士山の噴火に警戒すべきだ」と見通し、いずれの風水師も、たつき諒氏の予言を肯定的に受け止め、不安を煽っている。
昨年末から中国語版「私が見た未来 完全版」は香港でベストセラーとなり、続編の自伝「天使の遺言」(中国語版)も読まれ、今年前半まで上位の売れ筋をキープ。日本観光大好きな香港人の関心の高さがうかがえる。
流言の影響もあり、香港の格安航空会社(LCC)「グレーターベイ航空」は5月中旬以降、香港と結ぶ仙台と徳島の2路線が減便、7、8月の熊本便、鹿児島便での全便欠航が決まった。
気象庁の野村竜一長官は13日の定例会見で「地震予知は不可能」と明確に否定し、非科学的なデマ情報だと断言。「日本では、いつ、どこでも地震が起こる可能性があり、これを機に地震への備え、注意喚起をしてほしい」と呼びかけている。