トップ国際中国中国が日本産水産物の輸入再開へ その背後にある政治的狙いとは

中国が日本産水産物の輸入再開へ その背後にある政治的狙いとは

中国が日本産水産物の輸入を再開する動きが加速している。東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を理由に、2023年8月から全面停止されていた日本産水産物の輸入が、2025年5月末に日中両政府の合意により再開に向けた手続きが始まった。この動きは、日本経済にとって朗報である一方、背後には複雑な政治的意図が絡む。特に、トランプ米政権の貿易保護主義と日米関係をめぐる中国の戦略的狙いが浮かび上がる。

●日本産水産物輸入再開の経緯

福島県浪江町の請戸海岸から見える東京電力福島第1原発=10日午前、福島県浪江町

中国は、福島第一原発の処理水放出開始後、「核汚染水」と呼んで強く反発し、日本産水産物の輸入を全面停止した。この措置は科学的な根拠に乏しいと日本側が批判し、国際原子力機関(IAEA)の安全基準への適合性を強調してきた。2024年9月には、IAEAの枠組みでのモニタリング強化を条件に、中国が段階的な輸入再開に合意。2025年5月には、福島など10都県を除く地域からの水産物輸出再開に向けた技術的要件で合意が成立し、手続きが進行中である。

この合意は、日本にとって経済的に重要な意味を持つ。2022年の中国向け水産物輸出額は871億円で、ホタテやマグロなど主力品目の輸出が停止された影響は甚大だった。特に北海道の水産加工業者は、輸出先の多角化を迫られつつも、トランプ政権の高関税政策による米国市場の不透明感に直面していた。輸入再開は、これらの地域経済にとって一筋の光明となる。

●トランプ政権の貿易保護主義と中国の戦略

輸入再開の背景には、トランプ米政権の貿易保護主義が大きく影響している。2025年1月に発足したトランプ政権は、対中強硬姿勢を鮮明にしている。

国務長官にマルコ・ルビオ氏、国家安全保障担当補佐官にマイク・ウォルツ氏といった対中強硬派を起用し、中国からの輸入品に最大145%の関税を課すなど、経済的圧力を強化している。

これに対し、中国は報復関税を課しつつ、米国以外の国々との関係強化を急いでいる。

日本産水産物の輸入再開は、中国がトランプ政権の孤立化を狙った戦略の一環と見られる。中国は、米中対立の激化を背景に、日本や欧州、東南アジアとの関係改善を進めている。特に日本は、安全保障面で米国と緊密な同盟関係にある一方、経済面では中国への依存度が高い。この「綱渡り」の立場を利用し、中国は日本との関係を強化することで、トランプ政権の対中包囲網に楔を打ち込む意図を持っている。

●日米関係への影響と日本の慎重な対応

中国の動きは、日米関係にも影響を及ぼす。トランプ政権は、貿易赤字削減を最優先課題とし、日本に対しても自動車や農産物分野での譲歩を求めている。日本は米国との関係を維持しつつ、中国との経済的パイプを確保する必要に迫られている。中国の輸入再開は、こうした日本の立場を揺さぶる要素となり得る。

日本にとって、今後の中国との関係ではバランスが求められる。米国との同盟を維持し、トランプ政権の対中政策との整合性を保つ必要があるためだ。日本はG7諸国との協調を優先し、2025年6月のG7サミット前に米国との貿易交渉を進める方針である。中国との関係改善が、トランプ政権の対中包囲網への参加圧力と衝突する可能性があるため、日本はバランス外交を展開せざるを得ない。

●中国の政治的狙いと今後の展望

中国の政治的狙いは明確だ。トランプ政権の貿易保護主義がもたらす国際経済の分断を逆手に取り、日本を含むアジア諸外国との関係を強化することで、米国の影響力を相対的に弱めようとしている。輸入再開は、科学的・技術的な協議の成果として表向きは提示されているが、その裏には対米牽制の意図が隠れている。中国は、福島など10都県の輸入制限継続や、段階的な再開方針を通じて、交渉の主導権を握ろうとしている。

今後、輸入再開が日中関係のさらなる改善につながる可能性はあるが、課題も多い。例えば、トランプ政権が日本に対して対中半導体輸出規制で同調を求めた場合、日本は米国と中国の間で難しい選択を迫られるだろう。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)

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