トップ国際中国中国・習主席ASEAN歴訪 対米で結束狙うも不発

中国・習主席ASEAN歴訪 対米で結束狙うも不発

16日、プトラジャヤで会談した中国の習近平国家主席(左)とマレーシアのアンワル首相(EPA時事)
4月中旬の5日間、中国の習近平国家主席はベトナム・マレーシア・カンボジアの東南アジア3カ国を歴訪した。米中貿易戦争の最中、米国の相互関税発動(90日間休止)の対象となっている東南アジア諸国を訪問することでタッグを組んでトランプ米政権に対抗しようとのもくろみがあった。一方、わが国の石破茂首相は4月末、ベトナムとフィリピンを訪問した。トランプ氏の関税措置で米国離れしかねない国々への関与を深め、対中傾斜に歯止めをかけたい思惑がある。(池永達夫)

中国では、労働コストの上昇や長引く米中対立などを背景に、生産拠点を東南アジアに移転する動きにドライブがかかっている。中国が見越しているのは、製造拠点を東南アジアに置くことによる欧米からの経済制裁逃れと、総人口6億7000万人という東南アジアの市場に食い込もうというものだ。無論、東南アジアを中国の裏庭にしておきたいという安全保障絡みの政治的思惑もある。

東南アジアは日本など各国の企業が中国一極集中のリスクを避けるため、生産拠点を分散させようと「チャイナ・プラス・ワン」の受け皿として成長。とりわけ第1次トランプ政権発足後、米中摩擦の隙を突くように中国からの工場移転が進んだ。その分、対米貿易黒字が積み上がった。

習氏がまず訪問したのはベトナムだった。ベトナムの2024年の対米輸出額は約1195億㌦(約18兆円)で、対米貿易黒字額も東南アジアでトップだ。今回、トランプ政権から突き付けられた相互関税は46%と高かった。中国とすれば共に米国から高関税を突き付けられ、共闘タッグを組みたいところだった。だが、習氏の「共同で覇権主義、一国主義、保護主義に反対すべきだ」との呼び掛けに対し、ベトナム首脳の返答は「多国間主義を堅持し、国際貿易のルールを守りたい」との普遍的な一般論でしかなかった。

ベトナムは4月2日、米国に対し液化天然ガス(LNG)調達や自動車輸入関税の引き下げ方針を明らかにしている。最高指導者トー・ラム共産党書記長は4日、トランプ氏との電話会談で「対米輸入関税をゼロにする協議の準備ができている」と伝達済みで交渉で乗り切りたい意向に変化はない。

次に習氏は、東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のマレーシアを訪問し、「団結して関税乱用をボイコットすべきだ」と対米共闘を呼び掛けた。これに対しアンワル首相は「一方的に関税をかけるようなやり方に賛成せず、中国と協力してリスク対処していきたい」と答えている。結局、マレーシアは中国のボイコット論にはくみせず、米国の相互関税政策に対し能動的「反対」ではなく、「賛成しない」との消極的外交姿勢を打ち出すことで習氏の強硬論をけむに巻いた模様だ。

なおアンワル氏は習氏との昼食会と会談の間に、石破首相と電話会談を行った。アンワル氏は、あえて日本との会談を挟むことでバランスを取った模様だ。マレーシアのザフルル投資貿易産業相は4月24日、米通商代表部(USTR)高官と会談しており、ベトナム同様、交渉で落着させたい意向に変化はない。

最後に訪問したカンボジアで習氏は、「一方的ないじめ行為(覇凌行為)に反対し、真の多国間主義を堅持しなければならない」と呼び掛けた。これに対しカンボジアのフン・マネット首相は、「中国と協力し、両国の共通利益を守る」と応じ米国に敵対する表現は避けている。

中国が全面的にバックアップしているカンボジア南部のリアム海軍基地に4月19日、海上自衛隊の艦艇2隻が寄港した。同軍港は5日に完成したばかりで、自衛隊艦艇は外国海軍として初めて入った。自衛隊とすれば南シナ海の海洋権益の拡大を目指す中国による独占利用にくさびを打つ狙いがある。他方、カンボジアサイドとすれば、米国の同盟国である日本の艦艇をあえて入れることで二股外交の象徴にしたい意向が読み取れる。自衛隊艦艇の寄港は、習氏がカンボジアを訪問した17、18日の直後だった。

東南アジアにおいて両天秤(てんびん)外交は、国際的強国から利益を引き出す伝統的手法だ。米国と対峙(たいじ)路線を選択した習氏とすれば、東南アジアと強力なタッグを組みたかったものの「笛吹けど踊らず」で、柔らかく身をかわされた格好だ。

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