中国で先端軍事技術研究を行っている理工系の大学、特に「国防七校(国防七子)」と呼ばれる7大学は米国で規制対象リストに挙げられ、先端技術の防諜(ぼうちょう)で警戒強化されている。最新のハイテク軍事技術で米中が覇権争いを続ける中、日本は中国の軍事関連を研究する各大学との留学生交換を継続し、軍事技術漏洩(ろうえい)への規制監視が甘く、反スパイ法を強化した中国とスパイ防止法さえない日本では雲泥の差となっている。(南海十三郎)
日本で中国の留学生が急増したのは1983年、当時の中曽根康弘首相が「留学生10万人計画」を提唱し、当時のフランス並みに留学生を増やし、国費留学生を全体の1割程度にすることも方針としたことだ。2000年代に中国などアジア各国の留学生が急増し、03年には10万人を突破。文部科学省が発表した外国人留学生総数は27万9597人(20年5月現在)、中国人留学生は12万1845人で突出している。

留学生10万人計画の初期は旧帝大や有名私大、つくば万博を控えた最先端の研究学園都市を抱えた筑波大学などが国費留学として中国人留学生に人気だった。当時、筑波大学では、中国共産党のスパイ組織と台湾の中国国民党のスパイ組織が入り乱れ、「中国人留学生、台湾人留学生の激しい暗闘があった」(当時の台湾人留学生で台湾の東海大学元教授)と話す。
1990年代、2000年代以降、中国の対日工作では日本のハイテク先端技術を交換留学、学者の研究交流、代表団交流を通していかに効率よく移転できるか、心血を注いできた。
特に中国の軍需産業は各大学が人民解放軍と軍事技術開発の契約を締結していて最新兵器の研究開発を推進している。特に最新鋭の軍事兵器の開発については、「国防七子」と呼ばれる北京航空航天大学、ハルビン工業大学、北京理工大学、ハルビン工程大学、南京航空航天大学、南京理工大学、西北工業大学が中国政府国防七校科技工業局の直接管理下に置かれている。
国防七校の学生は米国や日本の大学に留学。中国軍関係者も日米に留学して軍民両用技術を帰国後に軍事転用している疑惑が深まり、米国では取り締まりを本格強化している。
中国では毎年約1000万人が大学を卒業、その半数近くが理工系で国内外のインフラ整備に貢献してきた。世界最大規模の高速鉄道網、高速道路システム、橋やトンネル建設だけでなく、最先端の軍事技術開発は米国と拮抗(きっこう)するほどになっている。
他にも総合大学を起源とする軍需産業を研究する「兵工七子」と呼ばれる7大学(北京理工大学、南京理工大学、中北大学、長春理工大学、瀋陽理工大学、西安工業大学、重慶理工大学)も米国では特に警戒されている。
米商務省は20年12月、制裁リストに中国の5大学を含む60の中国企業や組織を追加。中国人民解放軍のために軍事開発を行う「国防七子」のすべてが米制裁リスト入りした。トランプ新政権が発足すれば、さらに中国企業への規制、制裁が強まることになる。
中国では14年に反スパイ法、15年に国家安全法が施行されて以来、少なくとも17人の日本人が拘束され、アステラス製薬の男性社員ら5人が現在も拘束されている。日本の大学に勤務する中国人教授が一時帰国中に摘発されるケースも増え、習近平政権は「スパイ防止」のさらなる強化に乗り出している。
文部科学省が公表している「海外の大学との大学間交流協定」では、日本国内の大学と国防七校、兵工七子と提携して留学生を受け入れている大学は北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学、東京工業大学、慶応大学、早稲田大学など理工系の有名大学ばかりだ。経済産業省の調査(図表)でも、各大学の安全保障上の貿易管理についての危機感が甘く、ハイテク技術の漏洩、移転は大きな国益損失となる。