隠し資産凍結恐れる高官
中国軍内の権力闘争も白熱化

中国の習近平主席は就任以来、一貫して「祖国統一の実現」の政策目標を掲げ、武力による台湾併合を着々と準備を進めてきているが、今になって、それがかなり難しくなった。
原因の一つは、今年9月に米議会下院で可決された「台湾紛争抑止法」という法案にある。法案には、中国が台湾へ侵攻した際、中共政権の高官たちが世界中に持つ不正資産の公開や、本人やその家族による米金融システムへのアクセス遮断、資産凍結などができるようにする制裁措置が盛り込まれている。それが法律として成立すれば、中国共産党政権が台湾侵攻に踏み切った場合、中共幹部とその親族たちの米国での隠し資産が白日の下に晒(さら)されるだけでなく、その資産が制裁の対象となって凍結・没収される。
米で紛争抑止法成立へ
これは当然、中共政権に対する、大変な威力のある「戦争阻止法案」となろう。中共政権を支える高官たちの大半(あるいはほとんど)が米国に隠し資産を持っていることは国内では「公然の秘密」でもあるから、米国の法律によってそれが凍結・没収される危険性が生じてくると、共産党幹部集団にとっての死活問題となる。つまり、前述の「台湾紛争抑止法案」が法律として成立した暁には、軍幹部を含めた中国共産党政権の高官たちは、自分たちの財産を守るために習主席の企む「台湾併合戦争」を内部からこの手あの手を使って妨害し、阻止しなければならない。
こうなると、習政権の企む台湾侵攻はかなり難しくなるだろうと思われる。米国で前述の法案が法律としていつになって成立するのかは別として、実は昨年7月から中国国内で起きてきている一つの異変は、台湾侵攻の危険度をさらに下げる効果を持っているのである。
この異変とは、習主席による軍の粛清と、それに対する軍の反抗が表面化してきていることである。
昨年7月、習主席は突如、中国軍のロケット軍の司令官を更迭した。ロケット軍とは、陸軍・海軍・空軍に次ぐ中国軍の第四の軍種であって、ミサイルと核兵器を運用する部隊である。習政権が台湾侵攻を実行した際、このロケット軍こそが先陣を切るべき重要な部隊である。
「東風41」(2019年10月、北京市EPA時事).jpg)
本来、習主席がロケット軍の司令官を更迭する際、新しい司令官は当然、ロケット軍の生え抜きの幹部から選ぶべきであろう。特にロケット軍は専門性と技術性の高い部隊だからなおさらである。しかし大変意外なことに、習主席が新しい司令官に選んだのは海軍出身の軍人の王厚斌氏である。
王氏のそれまでの経歴は海軍一筋であって、ロケット軍と関係を持ったことは一度もない。そうなると、この門外漢の新司令官の下ではロケット軍はまともに軍事任務を果たせるとはとても思えない。これでは習政権の企む台湾侵攻もかなり実行困難となっているのである。
昨年9月には、中国の国防相の李尚福氏が突如解任された。この年の12月になって、海軍出身の軍人の董軍氏が新しい国防相に任命された。つまり、ロケット軍の新しい司令官と新国防相の両方とも海軍出身者が充てられることになっているが、その背後にあるのは、中共軍事委員会委員・政治工作部主任の苗華氏の存在である。
海軍優遇に別軍種反発
2017年、苗氏が海軍の政治委員を務めた後に習主席によって軍事委員会政治工作部主任に任命されたが、それ以来7年間、彼は軍における主席の代理人として権勢をふるい、軍の人事を一手で牛耳った。その中で苗氏は一貫して海軍優遇の人事を行い、陸軍などの別軍種の軍人たちの不満と怨念を買った。
そして今年11月末、この苗氏は突如、職務停止の上で取り調べを受ける身となった。事実の失脚であるが、それはやはり、陸軍を中心として軍の高官たちの「習主席・苗華ライン」に対する造反の結果であると思われる。つまり、中国軍の中では、「習近平派」と「反習近平派」との両陣営の闘いは、白熱化している最中なのである。
今後、権力闘争がどこまで激化するのかが不明であるが、政権と軍が大混乱に陥っていく可能性は大。今の中国共産党政権にとって、「台湾侵攻」云々(うんぬん)どころではなくなっているのである。