香港と同じく、中国の特別行政区であるマカオでは、行政長官選挙が13日に投開票され、唯一出馬した前マカオ終審法院院長(最高裁長官)の岑(しん)浩輝氏(62)が事実上の信任投票で当選した。カジノ売り上げでアジア有数の観光都市となったマカオが1999年末、ポルトガルから中国に返還され、統治構造が変わることで香港よりも強い「一国一制度」化の様相を呈し、香港の近未来を映し出す実験台のようになっている。(南海十三郎)
「一国二制度」下の香港とマカオで、マカオにあって香港にないのは巨大カジノだ。
香港マカオ間は24時間高速船が約1時間で結んでいて、2018年10月には香港とマカオを結ぶ港珠澳大橋が完成、開通している。
マカオは面積約33平方㌔(山手線の内側のほぼ半分)、人口約68万人の観光都市。年間カジノ売り上げは世界最大規模を誇り、「東洋のラスベガス」と呼ばれ続けたが、すでにラスベガスを超えている。年間約3940万人(19年)のインバウンド客が訪れているが、20年1月以降、コロナ禍でインバウンド客が激減。23年以降は急速に回復しているが、カジノ以外のギャンブルではスポーツくじ以外は苦戦、低迷が続く。
ギャンブルを含む観光産業に依存し、繊維業、花火の生産も行っていたが、コロナ禍で大打撃。その後、玩具、造花、電子機器の製造など他の産業振興も行っていても、いずれも小規模で産業構造の改革が遅く、決定打に欠く。カジノによる党幹部のマネーロンダリング(資金洗浄)一掃も課題だ。
マカオ政府のトップを決める行政長官選挙は13日、投開票され、唯一の候補者、岑氏が投票権がある400人の選挙委員の投票のうち、394票を獲得して当選した。
岑氏は広東省中山県(現中山市)生まれ。北京大学法学部卒業後、同県広州市で弁護士活動を経てポルトガルの大学に留学。マカオで裁判官を務めた後、マカオがポルトガルから中国に返還された1999年12月からマカオ初代最高裁長官に任命された。
行政長官の任期は5年(最長10年)。初代の何厚●(=金ヘンに華)氏、崔世安氏、賀一誠氏に次いで4人目となる。これまで行政長官はマカオ出身者だったが、中国本土出身者は初めて。健康上の理由で引退する現職の賀氏から行政長官として12月20日に職務を引き継ぐ。同日は返還25年の節目で式典には習近平国家主席の参加が濃厚だ。
岑氏は財界出身ではなくマカオとの地縁血縁が薄いため、「利権に左右されず、マカオ出身者ではないので広範な視点から改革しやすい」(香港マカオ研究会の劉兆佳副会長)との期待感がある。
一方で「澳人治澳(高度な自治でマカオ市民がマカオを治める)」という一国二制度の原則を「行政経験のないマカオ以外の中国本土出身者によって、より中国政府寄りの政策に変えやすい」(英BBCの報道)、「マカオで行政長官をマカオ出身者に託して振るわなかったため、法律に詳しいマカオ以外の人物にして中央政府の意向に沿う形に実験的に変え、香港で次に試す準備をしている」(マカオの人権活動家・周庭希氏)との懸念が出ている。
岑氏は8月の出馬表明以来、「カジノ産業への依存が長期的発展に悪影響を及ぼす。産業の多様化を推進する」と中央政府の意向に合致した政策を強調。新たな産業を呼び込もうとしているが、進まない。マカオは台湾との関わりが深く、台湾住民はマカオ入りにビザ(査証)はいらない。マカオの若者は台湾への留学を終えてマカオ政府職員になるケースも多く、密接だ。
中国政府は「頑迷な台湾独立分子」リストの台湾政府要人や民進党の有力者など12人を公表。家族を含め、中国、香港、マカオへの立ち入りを禁止する措置をとり、好調な半導体業界を含め、台湾人の事業家がマカオに入りにくい状況が強まり、マカオ政府のジレンマが続く。