トップ国際中国言論の自由がさらに後退 報道に「扇動」初判決-香港

言論の自由がさらに後退 報道に「扇動」初判決-香港

8月29日、香港区域法院(地裁)での判決後、 保釈されるネットメディア「立場新聞」の鍾沛 權・前総編集長(左)と林紹桐・前代理総編集 長=ユーチューブ動画より

香港では、3月に国家安全条例が制定され、扇動行為が厳罰化されたことで言論の自由が一段と規制され、圧力が強まっている。廃刊に追い込まれた民主派ネットメディアの「立場新聞」は8月末、扇動出版物発行の共謀罪で有罪となり、香港記者協会では今年6~8月に所属する記者や家族23人が嫌がらせや恐喝を受けたと発表している。(南海十三郎)

8月29日、香港区域法院(地裁)の郭偉健裁判官は2021年末に廃刊した反中系ネットメディア「立場新聞」の鍾沛權・前総編集長、林紹桐・前代理総編集長、親会社が「政府への憎悪をあおった」「(政府の)権威を深刻に破壊する意図があった」として有罪判決を下した。量刑は9月26日に言い渡される。

「立場新聞」は19年に発生した反政府抗議活動に関する記事を数多く配信し、21年12月29日、香港警察の強制捜査で廃刊に追い込まれ、同日、関係者7人を扇動出版物発行共謀容疑で逮捕。同月31日、山梨学院大学の練乙錚特任教授(元「立場新聞」役員)が扇動出版物発行共謀容疑で指名手配された。検察側は17本の記事を問題視し、裁判所はそのうち11本が扇動の意図があると裁定した。

香港では、20年6月30日に施行された香港での反体制的な言動を取り締まる香港国家安全維持法(国安法)、それを補完する今年3月施工の国家安全条例によって報道機関への締め付けが強まり、「立場新聞」だけでなく「蘋果(ひんか)日報(アップル・デイリー)」など民主派系メディアが相次いで廃刊に追い込まれた。蘋果日報創業者の黎智英氏は、国家の安全に危害を加えたとして起訴され、現在も裁判継続中だ。

香港の刑法では、扇動罪は最高刑が禁錮2年。国安法に抵触する最高刑は終身刑。これまで反中反共の民主活動家だけでなく、香港の民主化を求める若者たちなどが反政府デモで拘束、逮捕されて起訴、有罪判決を受ける判例は多い。しかし、「立場新聞」の場合、政府への批判報道と憎悪をあおったと受け止められる言論活動の線引きが司法判断として初めて明示されるケースとして量刑を含め、注目を集めている。

扇動していると認められた11本の記事のうち4本は4月に香港警察に扇動出版物発行共謀容疑で逮捕された区家麟氏(元・香港テレビ局TBV記者)の執筆記事。「香港独立主義者への情緒をあおっている」などと指摘している。3本は英国に亡命して香港政府から指名手配を受けている羅冠聡氏(元香港立法会議員)の論評。羅氏についてのもう1本の記事は本人へのインタビュー記事で「亡命者の主張に過ぎない」と扇動罪に問われなかった。

弁護側は多様な意見で議論喚起する正当性を主張したが、裁判所は報道が暴力的抗議活動をあおり立てる側面を最重視。特に20年の民主派デモが激化したのは報道機関がデモをあおって先鋭化させたとの判断があり、判決でもその部分が鮮明になった形だ。香港のメディア従事者から見ると、どの表現が民衆をあおった表現なのか、政府の判断基準がいまだに不鮮明で報道の合法ラインの見極めが困難。試行錯誤が続く。

香港警察国家安全処トップの李桂華・総警司は判決後の囲み取材で「外国勢力との結託がある場合、禁錮10年もあり得る。報道の自由は国家安全に抵触する場合、制限される」と強調している。

これに対し、香港記者協会は「香港での『報道の自由』の衰退を如実に表したものでメディア業界に取り返しのつかないダメージを与えた」と批判。14日、同協会は記者会見を開き、今年6~8月の期間、所属する13団体、記者やその家族15人に嫌がらせのメールが届き、8人に恐喝、脅迫があったと発表した。「立場新聞」も廃刊前、同様の嫌がらせや脅迫が相次ぎ、警察に相談しても対応してもらえなかったとしている。

香港記者協会は香港政府から目の敵にされていて主席のなり手もなかったが、7月、主席に就任した鄭嘉如氏は所属していた米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)から不当に解雇されたと発表。5月、WSJはアジア本部機能を香港からシンガポールに移転させている。

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