中国が「偽者」擁立なら無視を ダライ・ラマ後継問題 亡命後の若い僧侶たちに希望 都内でチベット問題シンポ

チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世2023年5月 24日、インド北部ダラムサラ郊外(AFP時事)
70年以上にわたりチベットを占領する中国共産党は、チベット人たちの言語や宗教への厳しい弾圧を続けている。そのような中、チベットの人権・宗教問題を取り上げたシンポジウム「チベット仏教の歴史とダライ・ラマ制度」(主催・アジア仏教徒倶楽部東京、共催・世界連邦日本仏教徒協議会)が先月30日、東京都内で開かれた。基調講演した石濱裕美子・早稲田大学教授は、インドで亡命政府を樹立し、チベット難民をまとめ上げているチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(88)の高齢化問題について、「ダライ・ラマ14世の死後を心配する声もあるが、亡命後に生まれた若いチベット人僧侶たちも育っており、彼らが頑張っていくだろう」と希望的な見方を示した。(石井孝秀)

ダライ・ラマ14世の高齢化による大きな懸念は後継者問題だ。チベット仏教では、死後に生まれ変わる「輪廻(りんね)転生」の考え方から、高僧の死後、その生まれ変わりが探索される。見いだされた子供は高僧の後継者に任命され、幼少期から宗教教育を施されるのだ。約1000年続く転生高僧の制度は、ダライ・ラマ法王も例外ではない。

中国共産党はダライ・ラマ14世の次の後継者を自分たちで選定するとしている。しかし、中国のコントロール下に置かれたダライ・ラマ15世の即位は、チベット社会のみならず自由主義陣営にも大きな混乱をもたらす恐れがある。

石濱教授もこの問題に言及し、中国側の選んだ“偽のダライ・ラマ”は「無視すればいい」と断じた。「少なくとも先進7カ国(G7)が、そのダライ・ラマ15世を認める可能性はゼロに近い。中国国内では仏教界のトップかもしれないが、世界仏教の顔になるのはまず無理だ」と強調した。

ダライ・ラマ14世がチベットの中心都市ラサから脱出し、インドに亡命してから今年で65年。中国共産党はダライ・ラマ14世を「分離主義者」として強く批判している。しかし、チベットの人々は今でも、中国共産党という新しい支配者を受け入れず、所有を禁止されたダライ・ラマ14世の写真を隠し持つ人も多いという。

石濱教授はチベット人たちがダライ・ラマを深く慕う理由の一つに、チベットの歴史神話との合体があると説く。チベットに仏教を初めて導入した古代の王ソンツェン・ガンポは、チベットでは観音菩薩の化身とされているが、ダライ・ラマ5世がソンツェン・ガンポの宮殿跡を拡充してポタラ宮を建てた。

石濱教授は「ダライ・ラマがチベットの創世神話と合体することで、チベットの覇権を握ったことを示した。ポタラ宮のある丘はラサのどこからでも見ることができ、ダライ・ラマの存在を感じながら生きてきたチベット人たちからすれば、丘の上の観音様に見守られてきたという意識がある。チベットの歴史神話と合体したダライ・ラマと中国共産党では、最初から勝負が決まっていた」と指摘した。

司会進行役を務めたペマ・ギャルポ拓殖大学国際日本文化研究所客員教授は、現在のチベットにおける宗教の状況を説明。すべての転生高僧は、共産党の宗教局から認可を受けなければならず、しかも昨年9月には、「あらゆる宗教施設に共産党員が必ず一人配置され、定期的に愛国教育をしなければいけなくなった」という。

その上で、「チベットは鎖国政治をしていたために、400年ほど平和に暮らすことができた。だが、世の中が変わっているのに近代化に遅れ、もろい国になってしまった。自分たちだけの平和を維持しても、周りがそれを許さなかった。今の日本も学ぶところがあるかもしれない」と指摘した。

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