カンボジア最大の港湾都市シアヌークビルは、首都プノンペンから南西に200㌔ほどの海岸にある。シアヌークビル経済特区(SEZ)はカンボジア最大規模のSEZで、中国系企業を中心として150社以上が入居している。カンボジアに進出しているイオンモールが物流センターを置くのもここだ。
<前回>埠頭363メートルは中国空母用?カンボジア海軍基地リアム フリゲート艦2隻が寄港 中国南進 揺れるASEAN(1)
カンボジアの首都プノンペン市内にある国際空港の北には、漢字の看板ばかりが目立つチャイナタウンがある。そこを抜けるとプノンペンとシアヌークビルを結ぶ高速道路に出る。2022年11月に開通したばかりの片側2車線の高速道路は、中国が建設したもので総工費は20億㌦だった。中国は資金提供する代わりに、50年間の運営権を持つ。
シアヌークビルまで昔は6時間かかったのが、今では2時間だ。ただ高速バスを使うとプノンペン市内を抜けるのに時間がかかり、始発ターミナルから終点まで約3時間半だ。シアヌークビルに入ると、ここでは町全体がチャイナタウンと化していた。ホテルやレストランのほとんどが、中国人によって仕切られている。地元紙によると、これまでの7年間で90億米ドルを超えた同州の建設投資のほとんどを中国企業が占めた。
とりわけ工事現場として活況を呈しているのが、崩した山の土砂で沿岸を埋め立てている中国不動産会社の観光複合施設「リアムシティー」だ。
リアムシティーはシアヌークビル国際空港に近い800㌶以上の埋立地に、ホテルやリゾート施設、マンション、レストランなどを整備する。上物はまだこれからだが、埋め立ては8割方終わっていた。
シエムレアプから北西50㌔のタイ国境に近いココンでは、間もなく中国による建設が完了するダラサコール国際空港がある。地元の人口は10万人にすぎないものの、滑走路はプノンペン国際空港をもしのぐ3200㍍で、軍用機の離着陸も可能だ。懸念されるのは、中国による同空港の軍事転用だ。
そうした周辺地域をもダイナミックに巻き込む形で開発が進むシアヌークビルを歩きながら、はたと膝を打った。「中国の海南島と同じだ」と気が付いたからだ。
中国は海南島に内外の資本を呼び込むため「中国のハワイ」として宣伝。これらの資本を巻き込む形で活用し、高速鉄道や高速道路、港湾、国際空港などインフラ整備を果たした。
だが、南の三亜湾隣にある亜龍湾には空母4隻が停泊できる長さ800㍍の埠頭(ふとう)が2本あり、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した晋級原潜が寄港できる専用ポートもある。また東部の文昌には、中国で初の海岸沿いの衛星発射センターが造られた。
海南島は観光リゾートという「衣の下」に、宇宙と海をにらんだ軍事基地という「鎧(よろい)」を秘めている。
シアヌークビルも、カジノで遊べるビーチリゾートという表看板の裏に、アフリカ東部のジブチに初の海外基地を設けた中国人民解放軍が第2の海外拠点として狙いを定めるリアム海軍基地への「赤い野心」が潜んでいる。
(シアヌークビル・池永達夫)