世界最大級のカジノ都市として隆盛を誇ったマカオは新型コロナの収束で客足が戻りつつあるが、旧来の施設型カジノだけでは収益が見込めず、逆風にさらされている。習近平政権によるギャンブル規制強化でかつてのハイローラー(大金を賭ける上客)中心のVIP市場は縮小して先細り、総合リゾート産業推進で非カジノ化へ舵(かじ)を切ろうとしているが、旧来の大手寡占によるカジノ依存体質の壁は厚い。(南海十三郎)
「コロナ禍でバカラやルーレットの盛り上がる台は一部。昼間はガラガラだったのが、夏休みの7、8月から熱気が戻ってきている」。香港からマカオへ定期的にカジノに通っている香港人は中国本土客がコロナ禍前の7割程度まで復調してきていることを香港のSNSで伝えている。
マカオは今年1月からコロナによる水際措置の大幅緩和で経済正常化が進み、カジノ業界も回復基調に入っている。今年上半期のマカオの総カジノ売上は801.36億パタカ(約1兆4615億円)で、コロナ前である2019年同時期の53・6%に相当しており、カジノ運営企業の業績回復に注目が集まっている。
マカオ政府が発表したカジノ収入はコロナ規制が撤廃された年明けから急増。香港証券取引所に上場するマカオのカジノ運営6社の23年上半期決算(1~6月期)は、6社中4社が最終黒字に転換した。
利益が最大だったのは銀河娯楽集団(ギャラクシー・エンターテインメント)で約29億香港㌦(約546億円)。純収入が最大だったのは金沙中国(サンズ・チャイナ)で約226・9億香港㌦(約4270億円)。MGM中国も4年ぶりに黒字を確保した。
赤字だった澳門博彩控股(SJMホールディングス)と新濠国際発展(メルコ・インターナショナル・デベロップメント)の2社は赤字額が大幅に縮小し、6社合計の最終損益の改善額は約3000億円となった。
マカオは域内総生産の約6割をカジノ関連収入が占め、カジノ依存からの脱却が喫緊の課題だ。江沢民政権、胡錦濤政権の時代、マカオは地方を含め、中国共産党幹部の不正蓄財、海外への資金移転の拠点として利用され、マネーロンダリング(資金洗浄)に使われ、腐敗の温床だった。
しかし、中国返還後、習近平指導部は「反腐敗」を掲げて足かせを断ち切るため、マネーロンダリングの撲滅を図る当局の締め付けが強化され、カジノの大きな収入源だった富裕層が大金をつぎ込むカジノの富裕層向けVIPルームが軒並み閉鎖に追い込まれ、旧来のカジノ収入はしぼみ、先細りだ。
危機感が募るマカオ政府は、カジノ企業6社の免許更新に際して非カジノ分野への投資や外国人観光客の新規獲得を求め、今後10年で非カジノ事業に総額約1090億パタカ(約2兆円)を投じる計画を発表し、免許を更新させた。
具体的には、ファミリー層の新規集客のために高級ホテルの新設、リゾート施設を併設し、MICE(国際会議や大型展示場)需要の創出につなげる狙いがある。マカオの来訪者数は中国本土客が全体の7割、香港を含めると9割で圧倒的に中華圏が多い。長年、独占から寡占経営でカジノ依存にあぐらをかいてきたマカオが、新たな集客の呼び水として高級ホテルやリゾート開発の建設ラッシュだけで新たな経済の柱を打ち立てるのは至難の業。中華圏依存で中国の一都市としての思考・発想では党利党益に翻弄(ほんろう)され、限界に直面しかねない状況が続いている。