中国の大規模核軍拡 2030年代に米国と「均衡」か【連載】核恫喝時代―日本の選択(4)

中国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風」=2019年10月、北京(EPA時事)

中国のネット上で、日本が台湾問題に軍事介入すれば、核攻撃も辞さないと脅迫する動画が拡散したのは、2021年7月のことだ。動画は「六軍韜略」という中国の軍事情報チャンネルが投稿したものだが、削除後に中国共産党の地方当局が再公開した経緯を考えると、中国政府公認の主張とみていいだろう。

これは恫喝(どうかつ)によって日本人の考え方に影響を与えようとする中国の「認知戦」の一種とみられる。動画の中で注目すべきは、「核政策を限定的に調整することが必要だ」とし、核使用の「日本例外論」を打ち出していることだ。

中国の核戦略はこれまで、「最小限抑止」を基本とし、核の先制不使用や非核保有国には核の使用・威嚇を行わないことを宣言してきた。だが、こうした従来の政策を転換し、「日本例外論」を採用すべきだという主張が堂々と行われるようになったのは、中国が最小限の範囲を上回る核戦力を備えつつあるからだ。中国政府・軍内では、実際に台湾有事に備えて核戦略の変更を検討している可能性が高い。

「中国の核戦力の増強は、ミサイル、爆撃機、潜水艦、核弾頭の前例のない拡大であり、米国とソ連が核戦力を拡大した1960年代以来のことだ」

本紙の取材にこう指摘したのは、米国の著名な中国軍事ウオッチャーであるワシントン・タイムズ紙のビル・ガーツ氏だ。ガーツ氏の言う通り、中国の「大核軍拡」はすさまじい。

米国防総省の中国軍事力年次報告書によると、同省は2020年の時点で中国が保有する核弾頭は200発台前半で、30年までに400発以上を保有すると見積もっていた。ところが、22年版報告書では、すでに400発を超え、30年までに1000発、35年までに1500発を保有すると、予想を大幅に上方修正したのだ。

米露の新戦略兵器削減条約(新START)はロシアが履行を停止したが、核弾頭配備数を1550発以下に抑えることを義務付けていた。中国は35年までにその上限に迫る核弾頭を保有することになり、米中の核戦力は量的な均衡に向かって進んでいる。

中国は核の運搬手段も増強しており、米国防総省は21年版報告書で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機から成る「『核の3本柱』を確立している可能性がある」と分析した。

ICBM発射台の数では中国がすでに米国を上回っていることが明らかになっている。また、日本を核攻撃できる「東風21」やグアムを射程に収める「東風26」など多様な中距離弾道ミサイルを配備。ミサイル防衛網を突破できる極超音速滑空兵器の開発でも、中国が米国を先行している。

冷戦時代、米ソの核戦争を抑止したのは「相互確証破壊(MAD)」だった。核攻撃を行えば報復核攻撃を受けて相互に破滅するという「恐怖の均衡」が両国の行動に歯止めをかけたのだ。だが、矢野義昭・元陸将補は、中国にはこれが成り立たない可能性があると警告する。

「毛沢東の大躍進政策や文化大革命を見れば分かるが、どんな人的犠牲も顧みないのが中国だ。上海などの大都市が核攻撃を受けて仮に1億人が死んだとしても、全人口の10分の1以下だ。中国指導部は核戦争を耐え抜けるという戦略を持っていないとも限らない」

自国民の人命さえ顧みない中国が他国の人命を尊重するはずがない。これはすなわち、中国は核使用のハードルが他国より低いと捉えるべきだろう。

(早川俊行)

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