台湾有事の核リスク 使用排除しない習近平氏【連載】核恫喝時代―日本の選択(3)

空母「山東」の乗員と握手する中国共産党の習近平総 書記(国家主席)=2019年12月、海南省(EPA時事)

台湾有事で中国は核を用いる可能性がある――。米国で実施された図上演習で、こんな衝撃的なシナリオが明らかになった。

米政府・軍幹部から中国による台湾侵攻は予想より早く起こり得るとの見解が相次ぐ中、米国の研究機関では台湾有事を想定したシミュレーションが活発に行われている。有力シンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」は、核兵器に焦点を当てた図上演習を実施したところ、中国は米国のアジア太平洋地域の戦略拠点であるグアムを低出力核で攻撃するという展開になったのだ。

今年2月に結果をまとめた報告書が公表されたこの図上演習は、国防脅威削減局(DTRA)という国防総省機関の資金で行われており、台湾有事に備える米国防当局者たちを大いに驚かせたものと想像される。

図上演習でも明らかになったが、中国が台湾侵攻に踏み切った場合、まず米国や日本に核恫喝(どうかつ)を行うことが予想される。ウクライナ戦争では、ロシアのプーチン大統領による核使用を恐れた米国や欧州諸国がウクライナへの軍事援助を躊躇(ちゅうちょ)し、戦車や戦闘機の提供が大幅に遅れたからだ。

「ロシアの核の影が米国の行動に大きく影響した。今後、米国と戦う側が核を強調するのは避けられない」。防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長は、笹川平和財団が先月開いたオンラインセミナーでこのような見通しを示した。

プーチン氏が核恫喝は有効であることを証明したことで、中国の習近平国家主席もこれに倣い、日米が台湾防衛に介入するのを阻止または遅らせるために、核恫喝を行うことは間違いないと見るべきだろう。

中国が危険なのは、恫喝にとどまらず、実際の核使用へとエスカレートする可能性があることだ。図上演習ではグアムが攻撃されたが、在日米軍基地が標的になるシナリオも決して否定できない。

中国にエスカレーション・ラダー(はしご)を上げさせないようにするには、それぞれの段階で中国に同等のコストを強いる対抗手段を用意しておくことが求められる。だが、図上演習の報告書は、米国には限定的な核攻撃の能力や標的が不足し、「エスカレーションを管理する選択肢が少ない」と強い懸念を示した。

さらに、核使用リスクが最も高まるシナリオは、中国の台湾侵攻が失敗しそうなときだ。これについて、日本安全保障フォーラム会長の矢野義昭・元陸将補は、本紙の取材に次のように解説した。

「核は実は防御的兵器だ。優勢であれば、通常戦力で戦争目的を達成できるので、あえて核を使う必要はない。だが、劣勢に追い込まれ、核以外に打開策はないというときに使う可能性が高まる」

つまり、台湾が日米などの支援を受け、侵攻した中国軍に対して優勢になればなるほど、中国の核使用リスクは逆に高まるということだ。あまりに皮肉な現実である。

「撤退か降伏かの決断を強いられる状況に追い込まれれば、習近平は間違いなく核兵器を使用するだろう」。山下裕貴(ひろたか)・元陸上自衛隊中部方面総監は、近著『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』でこう警告した。

習氏にとって、政治生命が懸かる台湾侵攻に失敗は許されず、成功させるためならあらゆる選択肢を排除しないだろう。台湾有事は核戦争リスクと隣り合わせになることは避けられない。(早川俊行)

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