トップ国際中国食糧増産体制強める中国 農地開拓は有事想定? 森林保護政策から一転

食糧増産体制強める中国 農地開拓は有事想定? 森林保護政策から一転

「国防動員」部署新設も

習近平国家主席が視察した際の映像を流す寧夏回族 自治区銀川市のワイナリー=6月9日(時事)

中国が有事を想定した体制整備に力を入れている。「退林還耕」を標語に食糧増産に発破を掛けるとともに、全国規模で「国防動員弁公室」を新設し、有事に人の確保とその腹を満たす食糧増産に手を打ち始めた。(池永達夫)

中国は1990年代、環境問題などを考慮し「退耕還林」政策を打ち出した。「退耕還林」とは、森林保護政策をいう。山の木を切り出して段々畑にするなど穀物や野菜増産に励んだものの、結果は山が持つ保水能力といったダム効果を損ない、洪水が頻発したり国土の砂漠化現象が危惧されたりするようになった反省から、打ち出されたものだ。「緑の長城を築く」とのキャンペーンも張られた。

共産党独裁政権の実績追及の責め苦から逃れるため、はげ山をセメントで覆い緑のペンキを塗るといった偽装森林が話題になったのもこの頃の話だ。

ところが近年は180度逆転し、「退林還耕」政策が打ち出されるようになった。

森林を農地に変える「退林還耕」政策の目的は、食糧増産だ。

中国の食糧生産量は2022年、前年比0・5%増の6億8655万㌧となり、習氏が厳命する死守ライン6億5000万㌧を8年連続でクリアした。内訳はコメが前年比2・0%減の2億849万㌧、小麦が同0・6%増の1億3772万㌧、トウモロコシが同1・7%増の2億7720万㌧で、小麦とトウモロコシの生産量は史上最高を記録した。減産続きだった大豆は同23・7%増の1640万㌧といずれも好調だ。

それでも習氏は今春、「千億斤の食糧」生産能力建設プロジェクトを打ち出した。斤とは中国独自の計量で500㌘だ。だから千億斤は5000万㌧を意味する。つまり習政権は年間約8%増の食糧生産能力を持つよう、地方政府に檄(げき)を飛ばしている格好だ。この指示を受けて出てきたのが、「退林還耕」政策だ。

習氏の食糧増産の狙いは、外国からの輸入に頼らないで済む自立型農業の確立にある。

中国の食糧生産量は目標値をクリアしているものの、小麦やトウモロコシなど1億5000万㌧近い穀物を海外から輸入しており、有事にはこれらがストップするリスクが存在する。

事実、小麦、トウモロコシ輸入に関しては9割方、米国とウクライナに依存している。だからこそ習氏は「中国人の茶わんには主に中国産の『糧食』が入っている状態を確保しなければならない」と強調する。要するに食糧の増産体制を整備し、海外に食べ物を頼らなくても戦争に向かえる国家をつくろうとしているのが習政権だ。

この食糧増産体制は、ヒトラーが1934年に始めた生産戦という食糧増産運動を彷彿(ほうふつ)させる。ドイツはこの時、恒常的な食糧増産体制を構築することで、食糧の海外依存度を減らし戦争を遂行できる国家に仕上げていった経緯がある。

一方、台湾海峡や東シナ海、南シナ海などでの紛争を想定した人的補給を主業務とする「国防動員弁公室」も全国規模で新設が始まっている。有事に国民を徴兵できる国防総動員法が制定されたのは2010年だったが、これまで有名無実状態だった。だが、今春から全国規模での「国防動員弁公室」が陸続と新設され始めている。

人民解放軍の日刊紙・中国国防報は今春、国防動員弁公室新設の記事で「『戦争の弓』を引く準備作業を進める」と書いた。

食糧増産や国防動員弁公室新設は、来年1月の台湾総統選に向けた威圧効果を狙っているという見方もあるが、大局的には有事を想定した本格的な布石を着々と打ち始めたと見るべきだろう。

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