【ワシントン山崎洋介】英紙サンデー・タイムズは、新型コロナウイルスの起源を巡り、中国・武漢ウイルス研究所(WIV)の科学者たちが、新型コロナの感染拡大が始まる直前に、中国軍と協力し最も致死性の高いコロナウイルスを操作する危険な研究を実施していたと報じた。複数の米国務省関係者の証言によるものとしており、研究所からの流出説を裏付ける新たな情報として注目される。
同紙(電子版)は10日、中国で傍受された極秘の通信記録や科学研究を精査した米国務省の調査官らの証言などを基に、WIVで実施されていた研究内容について報じた。その中で、生物兵器開発を目的とした極秘の実験が進められていたとし、「WIVが新型コロナパンデミックの生成や流出、隠蔽(いんぺい)に関与したことがより一層、明らかになった」と主張した。
WIVでは2003年から「バットウーマン(コウモリ女)」の異名を持つ石正麗氏ら研究者が、中国南部のコウモリの洞窟から収集したコロナウイルスの研究を始めた。やがて米国の研究者と協力しリスクを伴う実験を始めたが、当初は調査結果を公表し、ワクチンを開発するのに役立つ可能性があると主張していた。
しかし、16年に石氏らが中国南部・雲南省の墨江ハニ族自治県にある鉱山の坑道で新たなコロナウイルスを発見した後、WIVは研究内容の公表を控えるようになったという。そこでは、SARS(重症急性呼吸器症候群)のような症状で3人の鉱山労働者が死亡し、見つかったウイルスは、新型コロナと最も近縁なウイルスであることが分かっている。
国務省調査官の一人は同紙に「それはまさに機密プログラムが開始された時だ。隠蔽されたのは、ウイルス生物兵器とワクチンの開発に関する軍事機密のためだと考える」と語った。研究は、このウイルスを人間に対する感染力を高めることを目的としたものであり、これが新型コロナの作成につながり、流出したとみられている。
特に注目されるのは、パンデミックが発生する直前に石氏らが人間への感染力を大幅に高める役割を果たす「フーリン切断部位」をウイルスに挿入する研究を行ったとされることだ。SARS系コロナウイルスでフーリン切断部位を持つのは新型コロナだけで、それが人為的に操作された可能性を示す根拠とされてきた。
同紙によると、WIVと共同研究していた米研究所で働く2人の研究者は、WIVの科学者が19年にウイルスにフーリン切断部位を挿入する研究を行っていたと米調査官に証言した。
またこれとは別に、米ジャーナリストのマイケル・シェレンバーガー氏らは13日、ネットメディア「パブリック」に発表した記事で、複数の米当局者の話として、新型コロナに最初に感染した「患者ゼロ」は、ベン・フー氏ら3人のWIV研究者だったと報じた。3人の研究者は、石氏の下でウイルスの感染力を高める機能獲得研究に取り組んでおり、19年11月に感染したと考えられている。
国務省は21年1月に発表した報告書で、19年秋にWIVで数人の研究者が新型コロナと通常の季節性疾患の両方に一致する症状を示したとしていたが、名前など詳細は明らかにされていなかった。
バイデン大統領は3月、米国の情報機関を統括する国家情報長官室に、WIVと新型コロナの起源の関係についての情報の機密指定を解除するよう求める法案に署名した。今月18日がその期限となっており、どこまで実態解明が進むか注目される。