トップ国際中国ウクライナ和平、中国は調停者になれない

ウクライナ和平、中国は調停者になれない

4月6日、北京でマクロン仏大統領(左)と握手する中国の習近平国家主席=(EPA時事)
4月6日、北京でマクロン仏大統領(左)と握手する中国の習近平国家主席=(EPA時事)

ポーズのみ、露側スタンス崩さず/西側分断を画策 覇権の座狙う

中国の習近平国家主席は先月下旬、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談し、ウクライナに特別代表を派遣する考えを示した上で、「ウクライナ危機の政治解決のため自ら努力を尽くす」と述べ、和平調停に意欲を示した。両氏の会談は、ロシアのウクライナ侵攻後初めてとなるが、習氏の本気度は疑わしい。(池永達夫)

習近平政権は布石として2月、12項目の和平案を公表した。ただ同提案はロシアとウクライナの直接対話や停戦を呼び掛けたものにすぎず、現実的なものではない。ウクライナ危機がロシアの一方的な侵略で始まった経緯を考慮すれば、ロシア軍撤退、もしくは奪った領土の返還こそが停戦交渉の入り口になるはずだからだ。その和平達成の直球をあえて外すということは、中国の思惑が別のところにあるということだ。

そもそも2049年の建国100周年までに「中国の夢」を実現しようと100年マラソンを走っている中国にとって、覇権国家米国の追い落としこそが21世紀前半の最大の目標だ。基軸通貨ドルの影響力を低下させ、「一帯一路」でユーラシア大陸の東西を陸路と海路で結び巨大経済圏構築を図ろうとしている中国の最終目標は、米国を覇権国家から引きずり落とし、その座に中国が座ることだ。

その中国にとってロシアは、米国を共通の敵とするパートナーだ。

だからウクライナ侵略戦争を始めたロシアが負け、プーチン大統領が失脚、さらに西側に近い新政権がロシアに誕生するようなシナリオこそは習氏にとって悪夢でしかない。

その悪夢を正夢としないために中国は、欧米が対露制裁措置として輸入禁止したロシア産石油を大量購入しているばかりか、半導体など軍民両用品をロシアに送り込み、その継戦能力を支えている。明らかにロシア側にスタンスを取る中国が、ロシアとウクライナの和平調停意欲を見せているのは単なるポーズでしかない。

中国が和平調停ポーズで得ようとしているのは、欧米の分断だ。

先月には訪中したマクロン仏大統領が「欧州は米中への追従を避け、台湾をめぐって欧州と無関係の危機に巻き込まれるな」と米国に反旗を翻すかのような発言をした。

欧米分断を図りたい中国にしてみれば、主要7カ国(G7)にくさびを打ち込み、してやったりの格好だ。

そもそも、中国が和平の調停者になれない致命的問題がある。

中国は、新疆ウイグル自治区やチベット自治区でみられるように強権の鞭(むち)を振るう人権弾圧国家だ。

和平は単に戦争がない状態をいうのではなく、自由が保障され、人と人が互いに敬い、他民族の文化や伝統を尊ぶ内的世界が伴ってこそ達成できるものだ。資産があっても思想信条の自由がなければ、リッチな奴隷でしかなく心が満たされることはない。

さらに「人」の字が示すように、相互に支え合って生きるのが人間である以上、健全なコミュニティーは人生にとって不可欠だ。こうした内的価値において中国は欠陥を持っている。利益誘導と武力だけでは、決して和平構築はできない。

なお、ロシアのウクライナ侵略戦争で中国が得た最大の教訓は、「核の脅し」が有効だということだろう。プーチン大統領の露骨な核による威嚇によって、米国のウクライナ支援にブレーキをかけることに成功しているからだ。

台湾併合を最大の課題とする習近平3期目政権は当面、来年初めの台湾総統選に向け、中国寄り政権を樹立するための選挙工作に動くことになろうが、台湾海峡の波が高くなれば手持ちの戦術核による脅しをかけてくる可能性が高く、そのブラフに西側諸国は今から備えておく必要がある。

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