
中国で香港政策を統括する夏宝竜・香港マカオ事務弁公室主任は13~18日、香港を訪問し、講演で2019年に発生した大規模な反政府デモについて「混乱要因はまだ根絶されていない」「外国勢力の活動、街頭での暴力復活を警戒せよ」と述べ、取り締まりの徹底化を呼び掛けた。(南海十三郎)
15日は中国が定める香港の「国家安全教育の日」の1周年。19年の大規模反政府デモが学生や若年層の過激化を煽動(せんどう)したことから、学校制度に「愛国愛港(中国と香港を愛する)」の教育が不可欠として、反体制的な言動を取り締まる香港国家安全維持法(国安法)の制定意義などを啓蒙(けいもう)する日としている。
同日、香港で開かれた記念式典の冒頭、夏氏は講演し、「国家の安全があって初めて香港と各家庭の安全が保たれる。安全と安定があってこそ一国二制度は保たれる」と強調。その上で、「一連の反政府デモは香港版のカラー革命(民主化運動)などでは断じてない。香港史上、永遠に消すことのできない汚点であり、常に警鐘を鳴らす永遠の痛みだ」と民主派のデモを批判した。また、「香港社会は平静に見えるが、実際は暗黒の流れが脈打っている。動乱が発生する根源が依然として残留しているので法治基盤を強固に確立し続ける必要がある」として、さらなる統制強化を求めた。
20年6月に中国は国安法を制定。中国や香港政府を批判するデモの実施はもはや困難だが、「香港で利益を訴える方法は多種多様であり、デモだけが唯一の手段ではない」と述べた上で「人権や自由、民主主義を偽装した一部の反中勢力の活動を軽視してはならない」と警鐘を鳴らし、「外国勢力」への警戒感を強め、香港の人々が欧米の批判に影響されるのを懸念している。
夏氏は16日にも香港立法会(議会)で演説を行い、「野党が存在することが民主主義ではない」と欧米の民主主義を批判し、中国式政治制度のあり方を強調した。
20年6月末の国安法施行から今年2月までに香港保安局が収集した同法に関わる告発などの情報は40万件超。3月末までに250人が逮捕、151人が起訴され、既に裁判が終了した71人は全員有罪となっており、一罰百戒で民主派は身動きが取れない。
浙江省トップの党委書記時代の習近平氏を補佐する党委副書記だった夏氏は、小中学校の教師経験があるため香港で推進する愛国教育に適任との評価もあり、習氏側近として重用されてきた。
17日、夏氏は香港の一部の財界関係者との会談を行った。香港に進出したドイツ企業で構成する香港ドイツ商工会議所のヨハネス・ハック会長は「ここ数年、香港の状況は一変し、ドイツ社会の香港への負のイメージが強まった。一国二制度のとくに『二制度』が重要だ」と二制度よりも一国ばかり強調する中国当局の姿勢を批判。夏氏は「双方の見方の違いはあっても、わが国は改革開放を継続し、一国二制度を維持していくことに変わりはない」とかわした。
李家超行政長官は18日の記者会見で、「早ければ年内、遅くとも来年までに香港基本法23条の立法化による国家安全条例の制定を目指す」と改めて表明した。
中国国家主席の習氏は10日から13日の4日間、香港と隣接する広東省を視察し、19年に習近平政権が提唱した広東省と香港、マカオの一体発展を目指す大経済圏構想「大湾区計画」の重要性を強調した。
世界三大ベイエリアである東京首都圏、ニューヨーク、サンフランシスコ・ベイエリアに続く世界最大級の都市圏を目指しており、香港が新たな付加価値を得られるか、政治的に中国の一都市として厳しい統制を受けて吸収されて色あせるかの岐路に来ている。