
香港政府トップの李家超行政長官は17日、国家への反逆行為を取り締まる香港基本法(ミニ憲法)23条を立法化する「国家安全条例」の制定を遅くとも2024年までに制定すると明らかにした。すでに香港国家安全維持法(国安法)が20年6月末に制定され、同条例が施行されれば取り締まりの範囲が拡大し、統制がさらに厳しくなる。(南海十三郎)
17日の中国系香港紙「香港商報」との単独インタビューで李家超行政長官は、遅くとも24年までには香港基本法23条を立法化するように法整備し、中国本土と香港の税関を通常状態に回復させ、今年中にマスク着用義務を含め、コロナ防疫制限を撤廃できるように目指すことを表明した。
香港基本法23条を立法化する国家安全条例案の具体的内容としては、外国代理人を使った偽装組織、新型メディア、最新の科学技術を駆使してスパイ活動を行うことを厳しく監視し、阻止することで取り締まり拡大を行う。海外組織と結託したスパイ活動を阻止することに特化した香港版のスパイ防止法の条例化ということになり、少しでも当局から疑いを持たれれば拘束され、処罰される。
香港警察出身で民主派取り締まりを指揮した強硬派の李行政長官は、国家安全リスク管理について「すでに保安局、司法局に研究リサーチを指示し、今年下半期には第2段階の法的整備を終えたい」とし、来年には第3段階(最終段階)を完成させ、施行する構えだ。とくに「国家安全に関わるフェイクニュースに関して偽装メディアを使って政治目的を達成するためにマネーロンダリングを行う行為を徹底阻止する内容」と強調している。
一国二制度は、一国の中で中国の共産主義、旧英国の民主主義の両制度を共存させる●(=登におおざと)小平氏が提案した制度で、97年7月から返還後の50年間にわたり香港に外交と防衛を除く「高度な自治」を保障する。その制度の根幹となっているのが香港基本法だ。
香港基本法23条は政治活動や言論の自由を制限する「国家安全条例」の制定を求めた条項だ。香港政府と立法会は、97年の中国返還で失効した英国植民地時代の法律に代わる治安法制の制定と成立を義務付けられていて、23条自体が国家への反逆行為などを禁じる法整備を香港政府に求めている。
香港市民の猛烈な反発のために、これまで国家安全条例案は中途で阻止されてきたが、返還後25年前後を境に一国二制度の「二制度」よりも「一国」を最優先する中国政府が一挙に香港での反体制的な言動を取り締まる香港国家安全維持法(国安法)を20年に制定した。香港の民主派や英国を含む欧米各国は「(84年の)英中共同声明を反故(ほご)にし、一国二制度を骨抜きにした」と猛反発。国安法施行後は、民主派は法規制で身動きが取れず、中国当局は条例整備を醸成する環境を整え、条例案策定は秒読み段階になっていた。
「香港は、いまだ香港基本法23条が定める立法を完成させていない」(中国国務院香港マカオ事務弁公室)と認めており、香港政府は03年に「国家安全条例」案の制定を目指したが、50万人規模の大規模デモが起きたため断念し、董建華初代行政長官(当時)が任期途中で退任した経緯がある。
19年6月、「逃亡犯条例」案改正をめぐり200万人参加(主催者発表)の大規模デモが起こり、林鄭月娥行政長官(当時)が撤回表明。中国政府は20年6月に香港の国家安全維持法(国安法)を制定し、昨年10月、林鄭行政長官も国家安全条例を制定する意向を表明し、任期一期で退任している。
国家安全法制が整備されれば、中国政府が目指すのは、香港の青少年の憲法や基本法に対する教育を強化し、国家意識と愛国精神を高める愛国教育の推進だ。反中、反共の〝牙〟を抜き、中国への従順な忠誠心を取り込む青少年教育、市民教育で総仕上げを目指しているが、香港市民の面従腹背、他国への移民は増え続ける傾向が続く。