日中国交正常化から9月29日で50周年を迎える。両国の産業界のパワーバランスも様変わりし、中国国内では日常生活で反日的な動きは少ない。ネット上での反日の言説は手厳しく、今月に入り、ようやく官製主導で祝賀ムードを演出するが、机上では笑顔で握手、机下では蹴り合う隣国関係が続きそうだ。(南海十三郎)
日中関係の険しい現状を産業界で象徴する出来事が8月18日、明らかになった。
「海外展開を強化した2015~18年に日本のデザイナーブランドとして宣伝してきたことが(中国の)消費者の感情を傷つける間違った戦略だった。日本らしさを取り除くために脱日本化する」
中国の雑貨店大手、名創優品(メイソウ=総本部は広東省広州市)が日本風の店づくりについて、SNS上で謝罪声明を出す事態に陥った。7月下旬にスペインの店舗でチャイナドレスを着た人形を「芸妓(日本の芸者)」とインスタグラムで誤表記したことをきっかけに「精日(精神的に自らを日本人とみなす)ブランド」「断固不買」「二度と行かない」「中国国内の店舗はすべて閉鎖しろ」など批判が噴出。

同社の共同創設者は日本人デザイナーの三宅順也氏。同社のロゴが赤地に白字で「メイソウ」と片仮名で書いたロゴを使うなど商品自体もユニクロや無印良品、ダイソーの模倣だと揶揄(やゆ)されるほどだ。
同社店舗でアルバイト経験のある人物が同店内で中国語曲を流すことを禁止しているとする中国版ツイッター・微博の告発投稿がネット上で拡散し、火に油を注いだ。
同社を一代で立ち上げた創業者の葉国富CEOは日本の100円ショップの中国版として「日本らしさ」を全面に印象づける形で中国内からアジア、欧米へ店舗数を急速に拡大。中国企業でありながら新規に進出した国々で契約する際は日本国旗を使って記念撮影するほどで、14年に池袋店を皮切りに日本にも進出した。
中国や世界の市場シェアでは、すでに無印良品を追い抜いていた同社は「偽装和風路線」の代償で暗雲が立ち込め、迷走状態が続く。20年、ニューヨーク証券市場へ時価総額6300億円で上場したが、米国株は75%近く急落。21年末で日本国内店舗は完全撤退した。7月13日、香港に上場したばかりだが、スペイン店で問題が起きて株価は10%以上下落し、海外進出計画も座礁しかかっている。
約100カ国・地域に5000店以上を展開するほど急成長してきた名創優品だが、来年3月末までに看板や内装から「日本らしさ」を取り除くと表明した。
中国では先月、1937年の南京事件で戦犯となって処刑された旧日本軍人4人の位牌が南京市内の玄奘寺に奉納されていたことがネット上で猛反発され、南京市当局は尼僧を逮捕し、関係者を処分。日本の盆踊りや夏祭りをイメージした各地の企画が取りやめに追い込まれた。
江蘇省蘇州市では日本の人気漫画ヒロインのコスプレをして浴衣姿でいた中国人女性が公共秩序騒乱容疑で公安当局に連行された。この一件はSNSで拡散し、日本の漫画やアニメが大好きな中国人の若者からは連行された女性に同情する意見が多い一方、浴衣を着た女性がPCR検査を断られるケースも発生している。
先月はペロシ米下院議長の台湾訪問を受け、8月4日、台湾周辺で軍事演習を実施していた中国軍の弾道ミサイル5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下。反日感情がSNS上で高まったが、日本製品や日本文化に好意的な中国人はなお多い。
今月からは北京など各地で日中国交正常化50周年の記念イベントが行われている。10月中旬からの5年に1度の党大会で3期目入りが確実視される習近平総書記としては、岸田文雄首相との電話会談実現に向け、日中関係の安定を優先させたい配慮がにじんでいる。