香港、次期行政長官に李氏確実 候補1人、〝マカオ式〟信任投票へ

中国と香港の旗=2019年6月18日(UPI)

香港政府トップの林鄭月娥行政長官が再選不出馬を決め、香港政府ナンバー2の政務官で警察出身の李家超氏が5月8日に行われる行政長官選への立候補を表明した。中国政府は李氏が唯一の候補と伝えており、選挙は返還後のマカオ行政長官選と同様の信任投票に一変。民主派を徹底排除し、競う複数候補すら許諾しない中国式の形式上だけの投票となりそうだ。(深川耕治)

「家族のことを最優先に考慮し、家族が家庭に帰る時だと思ってくれている」

4日、再選出馬を辞退表明した林鄭月娥行政長官は立候補しない理由をこう語った。「昨年3月の北京入りでも中央政府に直接伝え、理解を得ていた」と円満な辞任を強調するが、林鄭政権のレームダック(死に体)化は習近平指導部にとって許容範囲を超えていた。

昨年12月の立法会(90議席)選挙で親中派が89議席を獲得し、ほぼ独占したまでは中国政府のシナリオ通りだったが、12月末からオミクロン株による新型コロナ感染再拡大が猛威を振るい、3カ月余りで約740万人の人口のうち、115万人が感染。約8000人が死亡する大失態となった。

6日、香港行政長官選挙への立候補を表明する李家超政務官(香港政府新聞提供)

中国のゼロコロナ政策が香港で機能せず、就任当初は58%だった支持率が今年3月の支持率調査では12%まで落ち込み、民意回復の見込みがないと見切られたのが実情だ。

1997年7月の香港返還以降、歴代の行政長官(任期5年、2期まで可能)は2期10年を全うできるケースが一度もない。初代の董建華氏(2期目途中の約8年で辞職)、2代目の曾蔭権氏(1期2年、2期5年で辞職、公職不正行為で有罪禁錮刑)、3代目の梁振英氏(1期5年で辞職)、4代目の林鄭月娥氏(1期5年で辞職)を見ると、1期終盤では、失策続きで支持率が低迷し、「2期10年の継続は不可能」の香港ジンクスが続いている。

しかし、国家安全維持法(国安法)が施行され、一国二制度が機能しなくなった〝非常事態〟の香港では、中国式の信認投票の様相に一変し、「愛国者」以外の民主派は立候補できず、民意とはほど遠い一党独裁型選挙に変容する見通しだ。

6日、香港にある中国政府の出先機関「中央政府駐香港特別行政区連絡弁公室(中連弁)」は行政長官を選出する権限のある選挙委員(定数1500人)の集会で「李家超氏が唯一の支持できる候補者」と伝えた。

集会に参加した中華全国帰国華僑連合会の盧文端副主席は香港ネットニュース「香港01」に「コロナ感染拡大の深刻な現状や選挙実施までの時間的な制約を考慮すると、今回の行政長官選挙での人選は立候補者1人のみのマカオ選挙モデルが香港で最適だ」と話している。99年にポルトガルから中国に返還された一国二制度のマカオは、行政長官選で初代以外は候補者が常に一本化され、信任投票の形。マカオ行政長官は初代の何厚●(=金へんに華)氏、2代目の崔世安氏は2期10年を全うし、3代目の賀一誠氏も中国の意向通りの順当な政権運営を続けており、香港も同様の方式で安定させたい中国政府の意図が透ける。

行政長官選は親中派が99%を占める1500人の選挙委員だけが投票できるシステム。立候補する場合、中国政府お墨付きの全国人民代表を含む188人の推薦が必要となる。李家超氏は13日、過半数となる推薦人786人を得て立候補手続きを行い、当選確実の情勢だ。

香港警察出身の李氏は、2019年の大規模な反政府デモでは治安機関トップの保安局長としてデモ阻止のために催涙ガスを発射したり、若者を多数逮捕したりと、民主派の取り締まりを主導した強硬派。英国に亡命した民主活動家の羅冠聡氏は李氏の出馬についてツイッターに「絶対権力を付託された邪悪な独裁者」と投稿した。

中連弁の李家超「一強」の大号令で、行政長官選への出馬に意欲的だった梁振英前行政長官や新民党の葉劉淑儀党主席(元香港保安局長)は、李家超候補「支持」をいち早く打ち出した。選挙委員を何人取りまとめられるか、すでに政権樹立後の政治的影響力への皮算用が始まっている。