ウクライナ侵攻と台湾 米、迅速に訪問団派遣

日米台の協力で中国侵攻抑止を
ロシアがウクライナに軍事侵攻した光景は、台湾の人々にも「今そこにある危機」が確かに存在することを再認識させた。時を同じくしてネット上で飛び交い始めたのが「今日のウクライナは明日の台湾」という言葉である。
(台北・早川友久)

バイデン米大統領は当初から「米軍は派遣しない」と発言していたが、いざ攻撃が始まると改めて「米軍がウクライナで戦うことはない」と言明した。ロシアに攻め込まれたウクライナと、中国が虎視眈々(たんたん)と狙う台湾を重ね合わせ、「もし中国が攻めてきても米国は助けに来ないのではないか」という台湾の人々の不安の気持ちを表したのが「今日のウクライナは明日の台湾」だ。

台湾総統府で記念撮影する蔡英文総統(中央左)と、マレン元米統合参謀本部長議長(同右)ら米代表団=2日、(総統府提供・時事)
台湾総統府で記念撮影する蔡英文総統(中央左)と、マレン元米統合参謀本部長議長(同右)ら米代表団=2日、(総統府提供・時事)

しかし、この言葉には「認知戦」の疑いがある、と国立高雄大学法律政治学系の楊鈞池教授は言う。「米国は助けに来ない」という不安を抱かせることで台湾と米国を分裂させ、米国に対する疑念を抱かせるのが目的だと指摘する。それによって万が一の場合でも米国を頼れないという意識を台湾人に植え付け、中国との対立ではなく対話を重視する路線へシフトさせようという作戦だ。

こうした認知戦については、蔡英文政権も非常に警戒している。2016年の発足以来、特に米国との良好な関係をアピールしてきた蔡政権にとって、有権者の対米不信はそのまま政権不信へと直結する。ロシアのウクライナ侵攻を受け、台湾の対中国政策を担当する大陸委員会の邱太三・主任委員(閣僚)は早速「三つの点でウクライナと米国は異なる」と発表した。

三つの点とは「台湾は地政学的に第1列島線の最も重要な中心的位置にあること」「台湾は世界への半導体供給におけるサプライチェーンの中核を成していること」「ウクライナがロシアと地続きなのに対し、台湾と中国の間には台湾海峡という天然のバリケードがあること」である。これらの条件を考えれば、米国が台湾を見捨てることは「あり得ない」となるからだ。

政府が認知戦やフェイクニュースに神経を尖(とが)らせる一方で、台湾の人々は案外冷静だ。ウクライナ侵攻直前の2月22日に行われた台湾の基金会による世論調査では、約63%が中国による台湾への軍事侵攻について「可能性はない」と回答した(「可能性がある」は27%)。

加えて、米国側の素早い動きも台湾側を勇気づけた。バイデン大統領は3月2日、統合参謀本部議長を務めたマイケル・マレン氏を団長とする超党派訪問団を派遣し、蔡英文総統らと会談させた。続いて、訪問団と入れ替わるように、トランプ政権で対中強硬姿勢の外交を牽引(けんいん)したマイク・ポンペオ前国務長官が訪台している。与野党問わず、米国による「大物」の派遣は、台湾の人々を鼓舞し、落ち着かせる効果を十分発揮した。

米国は対台湾政策について、相変わらず従来の枠組みである「台湾関係法」と「六つの保証」に依拠して進めていくと発言。台湾有事の際に米国が介入するか否かについて明言しない「曖昧戦略」の転換については言及を避けてきた。しかし、地政学上の要衝に位置し、半導体サプライヤーとしてカギを握る台湾は、米国が「見捨てるわけにはいかない」存在になっている。台湾は自らの価値を高めてきたことによって、安全保障の傘も手に入れたことになる。

現時点で、仮に台湾有事が起きた場合、米国が介入しない可能性はゼロに等しい。であるならば、今後、台湾や米国にとって重要なのは、いかにして中国に軍事的侵攻をする気にさせないか、という点にシフトしていくのではないか。台湾有事が起きれば、日本も間違いなく巻き込まれることになる。米軍の介入を嫌う中国が、沖縄の在日米軍に先制攻撃を仕掛ける可能性が高いからだ。日米台が協力し、世界の民主国家とも連携して、いかに台湾侵攻が「割に合わないか」を中国に理解させる努力が必要となってくる。

今回のロシアによるウクライナ侵攻で、台湾の人々が改めて学び、認識したことがある。それは、自分たちの国を守れるのは自分たちしかいないというごく単純な原則だ。日本はどうか。覚悟が問われている。