トップ国際中南米【連載】「影の国家」の正体 トランプ政権VS南米犯罪組織(中)「テロ指定」で金融網遮断狙う―トランプ米政権

【連載】「影の国家」の正体 トランプ政権VS南米犯罪組織(中)「テロ指定」で金融網遮断狙う―トランプ米政権

西半球の安全保障強化へ
国家蝕む組織犯罪に対応

 トランプ米政権は、明確な政治的・宗教的イデオロギーを持たないブラジルの二大犯罪組織を「テロ組織」に指定した。米国が注視したのは組織の政治思想などではなく、暴力で地域社会や物流網を支配し、司法や行政、金融への浸透を通じて国家を蝕(むしば)む「実効支配の能力」そのものだ。制裁により組織への支援が広く処罰対象となる中、ブラジル政府は「主権侵害だ」と反発、組織犯罪とテロの境界線が根底から問い直されている。

ブラジルの二大犯罪組織「首都第一コマンド(PCC)」と「コマンド・ベルメーリョ(CV)」を外国テロ組織(FTO)に指定した米国務省(AFP時事)
ブラジルの二大犯罪組織「首都第一コマンド(PCC)」と「コマンド・ベルメーリョ(CV)」を外国テロ組織(FTO)に指定した米国務省(AFP時事)

「反テロ法制」の網

 米国務省は5月28日、「首都第一コマンド(PCC)」と「コマンド・ベルメーリョ(CV)」を「特別指定国際テロリスト(SDGT)」に指定し、続く6月5日には「外国テロ組織(FTO)」の指定を発効させた。SDGTが米国内の資産凍結や米国人との取引禁止を主眼とする金融制裁であるのに対し、FTO指定はより踏み込んだ強硬措置を伴い、組織に「支援」を提供する行為そのものを刑事処罰の対象にできる。支援の定義は幅広く、資金のみならず施設、輸送網、通信機器、専門的サービスにまで及ぶ。巨大犯罪組織への対応が「犯罪捜査」の枠組みから、より強力な「反テロ法制」の網へと完全に移行したことを意味する。

 FTO指定の前提には、PCCとCVが米国の安全、外交、経済的利益を脅かす外国組織であるとの認定がある。両組織が扱う麻薬の主要な密輸先は欧州市場であり、米国への直接的な麻薬密輸による影響は少ない。ただし、資金洗浄の過程で米ドル決済網や米国の金融機関が経由地として利用されている実態、そして国境を越えた指揮系統が中南米全域の治安を揺るがし、地域の不安定化を通じて米国(西半球)の安全保障環境そのものに影響を及ぼしていると断じた。間接的だが構造的な脅威を「一体のテロ脅威」と見なしたわけだ。

法の隙間突く脅威

 今回のテロ指定の最大の争点は、両組織が政権転覆や革命などの政治的・宗教的な目標を掲げていない点にある。主な目的は麻薬密売などの「経済的利益」の追求であり、思想的な背景を持たない。旧来の定義に照らせば、テロ組織と呼ぶことには法的な飛躍があるとの指摘は根強い。

 これに対しトランプ政権は、組織の「動機」よりも「破壊力と実効支配の能力」を重視する。非対称戦の能力、警察や司法、地方政治への浸透、域外勢力との結び付きなどだ。PCCは暗殺や暴力でファベーラ(貧民街)や物流ルートを支配し、一部地域ではインフラも牛耳る「準地方政府的な存在」と化している。国家機能の一部とはいえ、統治機能を乗っ取るほどの規模と武力を備えれば、それはもはや犯罪組織ではなく安全保障上の脅威であり、テロ組織と実質的に変わらない。これがトランプ政権の現実主義に基づく判断だ。

 ブラジル国内の反テロ法制は、人種、民族、宗教、思想などに基づく動機から社会に広範な恐怖を引き起こす行為を「テロ」と厳格に定義している。経済目的の巨大犯罪組織は組織犯罪法や麻薬法で裁くべき対象であり、今回の指定とは出発点が異なる。ルラ政権はこれを「内政および主権への不当な介入」として猛反発している。

ブラジル2大犯罪組織「首都第一コマンド(PCC)」と「コマンド・ベルメーリョ(CV)」の勢力圏
ブラジル2大犯罪組織「首都第一コマンド(PCC)」と「コマンド・ベルメーリョ(CV)」の勢力圏

 現状、ブラジル域内への米軍の直接介入は考えられないが、制裁の余波によるブラジル企業や金融機関への審査厳格化は避けられない。合法経済にまで犯罪組織の資金が入り込む中、意図せず取引した一般企業までもが処罰対象になりかねないとの懸念も広がっている。

 トランプ政権の決断の背景には、非合法・合法を問わず法の隙間を突いて肥大化するハイブリッドな脅威への強い危機感がある。友好国との間に法解釈の摩擦を生む危うさを伴うことは確かだが、国家を内部から侵食する脅威に対し、旧来の定義を維持するだけでは社会を守りきれないのもまた事実だ。問われているのは組織犯罪やテロという名称の是非ではなく、変化する脅威にいかに実効性をもって対処するかという現実的な問いだ。米国はテロ指定を通じて金融網の遮断と、西半球の安全保障体制への具体的な波及を狙っている。(サンパウロ綾村悟)

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