地の利生かし国際組織化
トランプ米政権は5月、ブラジルの二大犯罪組織「首都第一コマンド(PCC)」と「コマンド・ベルメーリョ(CV)」をテロ組織に指定した。テロ指定が目指すものは、単なる治安対策ではない。両組織は刑務所を発祥の地としながら、地域社会、国境、国際物流にまで勢力を広げ、警察や裁判所に代わる「法」を独自に敷く「影の国家」へと変質した。犯罪集団がどこまで肥大化すれば、通常の司法では処理しきれない安全保障上の脅威となるのか。その実態とトランプ政権の狙いを読み解く。(サンパウロ綾村悟)

二大組織の成立過程
ブラジルの二大犯罪組織に共通する最大の特徴は、刑務所という「囚(とら)われの空間」から生まれ、そこを権力基盤として成長したことだ。犯罪者を社会から隔離するための施設が、皮肉にも構成員の獲得や指令の拠点となった。政府が幹部を各地の刑務所へ分散させた収容政策も、結果として組織の掟(おきて)と人脈を全国へ拡散させる逆効果を招いている。
CVは1970年代末、リオデジャネイロ州の刑務所で結成された。受刑者同士の相互扶助を掲げて始まり、やがて都市部のファベーラ(貧困地区)を拠点に麻薬販売網を築いた。地域ごとの有力者が緩やかに結び付く分権的な性格が強く、武力で都市の一角を占拠し死守する「領域支配型」の組織だ。
一方のPCCは、十数年遅れた93年、サンパウロ州の刑務所で結成された。過密収容など獄内の問題解決を掲げて発足したが、やがて会費の徴収や収容者家族への支援、内部紛争を裁く超法規的な仕組みを整備していく。CVよりも統制の利いた「犯罪企業」に近い。
このPCCの統制力を世に知らしめたのが、2006年のサンパウロ州における同時攻撃事件だ。刑務所内からの指令に呼応し、外部の構成員たちが警察施設や公共交通機関を一斉に襲撃、大都市の機能を麻痺(まひ)させた。警察官35人を含む72人の犠牲者を出したこの事件は、塀の中の組織が外の社会を揺さぶる実力を示した。
独自の「法」を敷く
両組織が国際規模へと成長した背景には、ブラジルの地理的条件がある。同国はコカインの一大生産地であるボリビア、ペルー、コロンビアと国境を接し、長大な国境線とアマゾンの河川網を抱える。大西洋岸の港湾は欧州やアフリカへの輸出拠点でもある。国境、河川、港を結ぶことで、調達から国内販売、海外密輸までを担える地の利があった。
とりわけPCCは国際物流網の活用に特化している。ブラジル情報庁によれば、同組織はすでに20カ国以上に活動拠点を持ち、国外の構成員は約2千人に達する。ボリビアやパラグアイを調達拠点とし、南米最大級のサントス港などを経由して欧州へ向かう密輸ルートを実質的に管理下に置く。CVもリオから北部・北東部へ進出し、アマゾンの国境ルートと都市部の販売網を結び付けてきた。
しかし両組織の本質的な脅威は、暴力の規模よりも社会に及ぼす「影の権力」としての存在感にある。支配するファベーラなどでは、住民同士の紛争や金銭トラブルの処理から商業、交通、通信インフラに至るまで組織独自の規則が課される。警察や裁判所の役割を組織が肩代わりし、独自の「法」で違反者を処罰する。国家の内部に、もう一つの主権が事実上存在している状態だ。
都市の貧困地区を占有し続ける「領域支配型」のCVと、国境を越えた物流や資金を統括する「国際ネットワーク型」のPCC。共通するのは国家機能を侵食し「影の国家」へと変質を遂げた点だ。日本の暴力団のような従来型の犯罪組織ではなく、国家の法執行や国境管理を無力化しかねない非国家武装勢力として両組織を捉える専門家も少なくない。
犯罪組織の勢力がこの段階に達すれば、個別の犯罪件数の増減という次元の問題では済まされない。警察による治安維持を超え、金融、外交、情報機関を総動員する安全保障政策としての対処が不可欠となる。トランプ政権がテロ組織指定に踏み切った理由も、まさにここにある。






